成熟期に入ったアパレル業界において循環型・再生型ビジネスの動きが加速している。市場環境が大きく変化する中、アパレル企業にはどのような戦略が求められるのか――。前編に続き、2023年12月に書籍『2040年アパレルの未来: 「成長なき世界」で創る、持続可能な循環型・再生型ビジネス』(東洋経済新報社)を上梓したA.T. カーニー シニアパートナーの福田稔氏に、アパレル業界におけるイノベーションの事例や求められる戦略について話を聞いた。(後編/全2回)
■【前編】「3つの変化」が直撃、大激変のアパレル業界に現れた「夢の新素材」とは?
■【後編】急成長の日本発ラグジュアリーブランドが「ニット」で勝負する納得の理由(今回)
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完全循環型ビジネスを展開する「On」は何が優れているのか
――著書『2040年アパレルの未来』では、アパレル業界の注目すべき取り組みとして「サーキュラー(循環性)のイノベーション」について紹介されています。同時に、衣服のリサイクルの難しさについても触れられていますが、どのような課題があるのでしょうか。
福田稔氏(以下敬称略) 衣服や繊維のリサイクルは、「コットンからコットン」「ポリエステルからポリエステル」のように単一素材であれば比較的簡単にできます。しかし、混紡になるとコストが大幅に上昇するため、リサイクルが難しくなるのです。
世の中に出回っている製品を見ると、混紡は6割を占めており、単一素材は4割ほどですから、大きな課題といえます。つまり、リサイクルを前提とすると、そもそものテキスタイル(織物や繊維)のあり方から設計することが必要です。そこにメスを入れようとしているのが、現在の欧米や日本をリードする企業の動きになります。
――リサイクルを前提としたビジネスモデルを考える上で、注目すべき事例はありますか。
福田 たとえば、今回、本の中でも紹介しているシューズブランド「On」が挙げられます。同社は2010年の創業以来急成長を遂げ、ニューヨーク証券取引所に上場しています。
スニーカーのような複数のパーツが組み合わさっている製品は、リサイクルを前提としたビジネスモデルを設計しないと完全な循環型ビジネスの構築は困難です。そうした点を踏まえ「On」では、ランナーがシューズを所有しないことで廃棄をさせない、といった循環型システムを前提としたランニングシューズのサブスクサービス「サイクロン(Cyclon)」を展開しています。
サイクロンでは、リサイクルしやすいようにシューズを構成するパーツの量を減らすだけでなく、減らしたパーツのすべてをトウゴマから抽出したヒマシ油というバイオ由来の素材で作っています。さらに、サービスの中で新しいスニーカーをリクエストしたユーザーに対して、利用中のスニーカーを返却しないとサステナビリティ料金を請求する、という徹底ぶりです。
そもそも循環型で設計されていないものを循環させようとするのは困難でしょう。だからこそ、最初から循環させる仕組みをつくってビジネスモデルや製品設計を行うことが最大のポイントだと言えます。