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 不確実性が高まるなか、未来予測に基づくビジネスがますます困難を極める現在。一方で、世界は地球温暖化や人口問題、エネルギー問題、国際秩序の変容といったさまざまな難題に直面しており、そこには間違いなく未来を拓く「商機」が潜んでいる。本連載では『グローバル メガトレンド10――社会課題にビジネスチャンスを探る105の視点』(岸本義之著/BOW&PARTNERS発行)から、内容の一部を抜粋・再編集。起業や新規事業の創出につながる洞察を得るべく、社会課題の現状を俯瞰・分析する。

 第1回目は、コロナ禍のような「短期的な波」との違いを明らかにしながら、「長期的な大きな流れ=メガトレンド」とは何かを解説する。

<連載ラインアップ>
■第1回 なぜ「未来予測」は当たらないのか? 「メガトレンド」と社会課題の関係(本稿)
第2回 日本が連続受賞した「化石賞」とは? 脱炭素社会の実現に向けた世界の動き
第3回 水素、アンモニアは脱炭素の切り札になるか? 経産省も期待する新技術とは?
第4回 2058年に世界人口は100億人へ、「一足飛び」の成長が期待できる有望市場は?
第5回 サントリー、JTなどの海外企業の買収で考える「経営のグローバル化」とは?
第6回 「アメリカ側」vs.「中国側」の先へ・・・世界が向かう「多極化」とは?

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長期的な流れと短期的な波の違い

■コロナ禍は短期的な波

 2020年2月28日、安倍首相(当時)は、全国全ての小中学校や高校などに3月2日から春休みに入るまで臨時休校とするよう要請し、さらに4月7日には最初の緊急事態宣言が7都府県(16日には全国)に出され、日本の多くの学校は登校禁止になってしまいました。

 この時期に学生だった皆さんは、本来望んでいたような学生生活を送れず、長期間にわたって不自由な状態に置かれてしまったことでしょう。

 このコロナ禍は、多くの人々に甚大な影響を与えました。大学を9月入学にしたらよいのではないかという検討が政府で始まったとも2020年4月頃に報じられましたが、そういう検討をしていた人々の目論見は大外れとなり、2023年5月(感染法上の分類が2類から5類へと変更)にいたるまで約3年もの間、日本ではコロナ禍による行動制限が続いてしまいました。

 9月入学案というのは、コロナ禍が夏頃に終わったら(高校3年生の1学期を秋から再開したとして)、翌年の夏前に入試をすればいいという着想だったのでしょうが、そんなに早くは終わらなかったわけです。

 3年も続いたわけですから、コロナ禍を長期的な出来事ととらえている人も少なくないかと思います。しかし、3年というのは「短期的な波」の分類に入れるべきものです。コロナ禍で外食や旅行の業界は大打撃を受けましたが、2023年5月以降、これらの業界の需要は回復し、逆に大幅な人手不足になりました。

 3年程度で不景気から好景気を繰り返すというのは、割とよく起きていることです。好景気だと商品がよく売れるので、小売店などにある在庫が適正水準より下回るようになります(そうなると欠品が起きて、買いたいお客さんが来ても売るものがないということになります)。すると、小売店はメーカーから商品仕入れを増やそうと注文を増やします。その注文を受けたメーカーは増産の手配をしますが、実際に出荷が増えるまで若干の時間のずれが生じます。

 どうにか小売店の在庫が適正水準に回復できたとすると、今度はメーカーが増産を続けてしまって適正水準以上に在庫が増えてしまうので、小売店は注文を絞ります(こうした在庫水準の変動による景気変動の波のことを経済学者キチンの名をとって、キチンの波と呼びます)。こうした波は3年程度(正確に何か月になるのかは、波のたびに違うので予測が難しいようです)で起こると言われています。

 ちなみに、景気のサイクルには、このほかに企業の設備投資が10年程度で増えたり減ったりするサイクル(ジュグラーの波)、建築需要が20年程度で増減するサイクル(クズネッツの波)、大きな技術革新が起こる50年程度のサイクル(コンドラチェフの波)というものもあります。

 コロナ禍は、結局のところ、過ぎれば元に戻るという側面が大きく、変化がそのまま定着するわけではありません(テレワークも結局定着したとは言えませんでした)。なので、振れ幅がものすごく大きくて、多くの人々に甚大な影響は与えたものの、やはり「短期的」な「波」なのです。