慶應義塾大学 大学院経営管理研究科・教授の余田拓郎氏(撮影:今祥雄)

 DXが浸透したことに加え、コロナ禍によるフィジカルでのコミュニケーションの減少、リモートワークの普及などによってマーケティングの手法やアプローチにも変化が起きている。その中で、BtoB事業を手がける企業はどのように取り組んでいけばよいのか。マーケティング戦略、BtoBマーケティングの専門家である慶應義塾大学大学院ビジネス・スクールの余田拓郎教授に聞いた。

似たような製品で価格競争しているから営業利益率やWTPが上がらない

――部品や素材などの「技術面」で存在感を示す日本のBtoB企業は多いですが、グローバル企業と比べると営業利益率やWTPが低いと言われています。

余田 拓郎/慶應義塾大学 大学院経営管理研究科・教授

1960年広島県生まれ。東京大学工学部卒業。住友電気工業、名古屋市立大学経済学部助教授などを経て、2007年より現職。19~21年慶應義塾大学大学院経営管理研究科委員長兼ビジネス・スクール校長。11~13年商品開発・管理学会会長。専門は、マーケティング戦略、BtoBマーケティング。主な著書に『新版 BtoBマーケティング』(東洋経済新報社)、『BtoB事業のための成分ブランディング』(中央経済社)などがある。

余田拓郎氏(以下敬称略) 日本のBtoB企業全体の営業利益率が、この半世紀にわたり減少傾向にあるのは紛れもない事実です。そこにはマーケティング戦略や活動が大きくかかわる構造的な理由があると私は考えています。そのひとつが、顧客の要望に対応しすぎるという点です。

 顧客の要望に応えるのは当然と思われがちですが、その要望は自社だけでなく、似た製品を作っている競合他社にも伝えられています。結果、どの企業も同じような製品を作る状況となり、顧客はその中から安い製品を選ぶでしょう。こうして価格競争に陥ることにより、営業利益率やWTPが低下する現状が生まれていると私は考えています。

 このような傾向はBtoBに限らずBtoCでも言えることです。実際、家電や自動車メーカーといった日本のBtoC企業は、顧客の多種多様な要望に応えるため、海外の同じような企業と比べるとかなり多くの製品をラインナップしています。

 そうした、顧客ニーズに応えることがビジネスとして正しいと捉え、それを基にビジネスを進める構造から改めないと、営業利益率やWTPの低下を打開することはできません。
※支払い意思額:顧客がそのサービス・製品に支払っても良いと考える金額