移り変わりが早く、複雑さを増すビジネス環境で、持続的に組織を成長させることは、今や多くの企業にとっての共通課題だ。当連載では、サステナブル経営を支える人材育成法の新しいグローバルスタンダードであるIDGs(Inner Development Goals)について紹介した書籍『IDGs 変容する組織』(新井 範子、鬼木 基行、佐藤 彰、新宅 剛、水野 みち著/経済法令研究会)から一部を抜粋・再編集し、持続可能なビジネスを実現する人材に必要な能力、スキル、IDGsを経営に組み込む実践法を解説する。

 第1回目は、IDGsの成り立ち、SDGsとIDGsの関わり、そしてIDGsの核を成すコンセプトである5つのカテゴリーについて取り上げる。

<連載ラインアップ>
■第1回 Google、IKEA、Spotifyが支援 SDGs達成のカギとして注目を高めるIDGsとは?(本稿)
第2回 SDGsの17の目標並みに重要、IDGsの「5つのカテゴリー」とは?
第3回 経営者も一般社員も実行可能、IDGsを導入した組織のトランスフォーメーション


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内面の成長フレームとしての「IDGs」

IDGs 変容する組織』(経済法令研究会)
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 本章では、Inner Development Goals(内面の成長目標、以下「IDGs」という)の概要を説明し、内面の成長の必要性とIDGイニシアチブで策定された5つのカテゴリ―を理解頂くことを目指す。

 まず、IDGsの成り立ちと背景・目的を説明し、その成り立ちを踏まえて、内面成長の必要性を掘り下げて考察する。次に、個人の内面の成長と企業の事業活動とのつながりを考察する。またIDGsの考え方の基礎となるシステム思考について簡易ではあるが概説を行うので参考にして頂きたい。さらに、企業などの組織でIDGsを導入する方法とその効果を考察し、最後に、IDGsの5つのカテゴリ―とそれぞれの関連性を鳥瞰し、IDGsの具体的な内容を説明していく。

IDGs の背景と目的

(1)SDGsレポートから見る世界の取り組みの実際

 IDGsの取り組みの出発点は、持続可能な社会の実現に向けた取り組みSDGsの取り組みに盲点があるとの思いから発している(1)。SDGsは持続可能性に関連する17のゴールと169項目の個別の達成目標を設定しているが、多くの国々で、各年度とも達成状況が芳しくないことから、内面の成長の必要性が議論されることとなった。下表は国連の「SDGsグローバル指標」や各国の自主的な進捗評価を補完する目的で、毎年発表されている「Sustainable Development Report 2022」(2)からの抜粋である。

(2)「Sustainable Development Report 2022」 はこのレポートはデータ分析の際に、経済協力開発機 構(OECD)や国連食糧農業機関(FAO) などの国際機関による公式データや、民間の研究機関や市 民社会による非公式のデータも活用することで、よりタイムリーな情報を発信している

 2022年のレポートで示されたSDGインデックススコア(17のSDGsに関する各国の全体的な実績を評価したもの)の状況を見ると、2015年から2019年にかけては、2030年の達成目標に向けては不十分だが、それでも世界全体で年平均0.5ポイントの割合でスコアを伸ばしてきたことがわかる。ところが2019年から2021年は全世界でのコロナ禍の影響による経済的な混乱で、SDGインデックススコアは世界全体で0.01ポイント減少し、特に低中所得国での悪化が大きく、2030年までの達成に暗雲が立ち込めている。

 また、下表に示すように各地域別の17の目標に対する達成度をみても、2飢餓をゼロに、14海の豊かさを守ろう、15陸の豊かさを守ろうで多くの国とエリアでチャレンジが必要な状況が続いている。

 2015年の国連の持続可能な開発サミットの成果文書、2030アジェンダで設定されたSDGsは、これまで各目標に対する実施方法や対策の議論はされてきたが、それを実践する人の育成や必要な能力がどのようなものであるか議論されることはなかった。達成に向けた具体的な取り組み内容やマイルストーンについての合意が得られても、達成状況は上記に示すように2030年までの達成が困難な状況に陥っている。これまで人材について議論されることがなく、実行に必要な能力とマインドを持った人財が不足していることも大きく影響していると考えられている。