移り変わりが早く、複雑さを増すビジネス環境で、持続的に組織を成長させることは、今や多くの企業にとっての共通課題だ。当連載では、サステナブル経営を支える人材育成法の新しいグローバルスタンダードであるIDGs(Inner Development Goals)について紹介した書籍『IDGs 変容する組織』(新井 範子、鬼木 基行、佐藤 彰、新宅 剛、水野 みち著/経済法令研究会)から一部を抜粋・再編集し、持続可能なビジネスを実現する人材に必要な能力、スキル、IDGsを経営に組み込む実践法を解説する。

 第3回目は、IDGsを組織に取り入れ、風土を変え、ビジョン、ミッションへのコミットを引き出す方法を取り上げる。

<連載ラインアップ>
第1回 Google、IKEA、Spotifyが支援 SDGs達成のカギとして注目を高めるIDGsとは?
第2回 SDGsの17の目標並みに重要、IDGsの「5つのカテゴリー」とは?
■第3回 経営者も一般社員も実行可能、IDGsを導入した組織のトランスフォーメーション
(本稿)

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(2)IDGsの組織への導入方法の考察

 ここで、企業でのIDGsの活用について考察したい。前述したように現時点では、評価の指標として5つのカテゴリーと 23のターゲットスキルの習得状況を評価測定する明確な指標は存在していない。そのため、すぐに指標として人事考課と連 動させることは難しいだろう。

IDGs 変容する組織』(経済法令研究会)
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■360度評価で導入する方法

 最も導入を想像できる方法としては、360度評価の指標とし て取り入れる方法だ。360度評価は、上司、同僚、部下など文字通り社内の360度の関係者から日頃の業務の進め方や他者 との関係の仕方についてのフィードバックをもらう評価方法だ。

 この評価の利点は、自身では気づけない盲点に気づかせてもら えることで自身の振り返りと改善のきっかけをつくってくれる ことだ。近年では、ネット上のサービスも増え360度評価シ ステムを導入している企業も増えている。この360度評価の 設問をIDGsの5つのカテゴリーや23のターゲットスキルについての設問を設定することで振り返りの機会を設けることができる。

 実際に設問を導入する場合には、IDGsの5つのカテゴリーと23のターゲットスキルが何を意味しているかある程度のガ イドラインとセットで実施することや、自己評価との比較を行 えるようにすることが重要だろう。自己評価することと他者へフィードバックすることを通してIDGsの各カテゴリーとターゲットスキルに関する理解が深まると考えられる。

■職層教育で導入する方法

 次に、教育を通じてIDGsを導入する方法だ。人間力のキーワードは、管理職教育など多くの人と関わりを持ち協働を加速させるタイミングで教育のキーワードとする企業も多いようだ。IDGsを管理職教育等の職層教育のキーワードとして取り入れることで、これまでの働き方の振り返りとこれからの働き方の 指針となり、昇格者の気づきのきっかけにつながるはずだ。

 このシナリオの実現を考えると、専門の講師を呼んでの実施は、現状では講師人材が不足しているため難しく、自社内の人材開発部門を中心にIDGsの導入を検討し、社内講師で始めるのが現実的だと考えられる。

■専門教育で導入する方法

 2022年12月にIDGs Toolkitが公表された。このToolkitは、IDGsの5つのカテゴリー、23のターゲットスキルを高めるための方法を紹介したツール集である。ここで紹介されたいくつかの方法を専門教育として教育やワークショップで実施するのは、比較的現実的な導入方法だと考えられる。Toolkitで紹介されたツールの中には、専門家が多い方法も多数あり、導入も比較的容易に実施できるだろう。各企業の課題に応じて適したツールを選択いただけるとよいだろう。

 注意点は、Toolkitで紹介のあったツールをいくつか取り入れることが必ずしもIDGsのすべてを網羅しているわけではないということだ。1つのツールがいくつかの項目の内面成長をカバーすることはあるが、5つのカテゴリー、23のターゲットスキルすべてを網羅するのは難しい。IDGsが5つのカテゴリーで成り立っていることを念頭に、網羅的に専門教育プログラムを準備することを推奨したい。網羅的に5つのカテゴリーを高めていくことで、課題に対する改善に相乗効果が生まれ、5つのカテゴリーを同時に高めることで教育受講者の学習効果が高まることを期待しているためだ。