オンラインで顧客創出や需要喚起などのマーケティング活動を行う「デジタルマーケティング」が本格化して20年ほど。2020年以降は、コロナ禍で従来の顧客体験の提供の仕方を変更せざるを得ないケースが多くなり、オンラインの重要性は増した。マテリアル・住宅・ヘルスケアを事業領域にもつ旭化成グループも2020年以降、デジタル技術によりマーケティング手法を刷新している。

 今回、取り上げるのは、ヘルスケア領域の旭化成ファーマ。医薬情報担当(MR)が医療従事者にアプローチするプッシュ型の情報提供に加えて 、情報を必要とする医療従事者が自ら能動的に情報収集するプル型の情報提供スタイルを実現した。プロモーション手法の変革といえる。「コロナ禍でのMRの働き方をデジタルで変えた」とも評されるこの変革の舞台裏を追った。

コロナ禍でMRが医師らと直接面会できない事態に

 医療従事者が医薬品を正しく理解し、それを適切な患者に処方するために、製薬企業は様々なプロモーションチャネルを通じて医療従事者に対し、医薬品の適正使用情報を提供している。

 医療用医薬品や診断薬の製造販売を行う旭化成ファーマでは、当時、その手段の一つとしてデジタルマーケティングに力を入れようとしていた。そうした中、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大し、MRが医療機関を訪れて医師らに対面で情報提供する「従来の活動」が大きく制限された。

 その頃、旭化成ファーマでマーケティング戦略を担当していた石川栄一氏はこう振り返る。

「当社は、ウェブマーケティングに若干の遅れがあり、強化の動きが社内にありました。そして、2020年4月に緊急事態宣言が発出され、医療機関へのMR訪問が制限されたことで、その機運が一気に高まりました。コロナ禍でデジタルマーケティングが進んだのは確かです」

旭化成 デジタル共創本部 CXトランスフォーメーション 推進センター センター長 石川栄一氏(撮影:酒井俊春)

 MRが医師らに面会できなくなったため、同社はオンライン面談や、 医療従事者向けメディアを用いたウェブプロモーションやウェビナーを積極的に実施した。

「こうした一連の活動を通じて、医師の方々が、メディアやウェビナーを利用した後の“受け皿”が必要ということが調査などでわかってきました。川上から川下までのチャネル戦略で、どこか一つでも寸断されると医師の関心は薄れ処方に結び付きません」