企業の挑戦は、自社の社員に「会社の目指す未来や意志」を伝える意味もある。日本郵便が取り組むドローン・ロボットによる配送は、収益化はまだ当分先であり、関わるメンバーには「社内から冷ややかな目で見られるのでは」という不安もあったという。しかし、この取組みは、日本郵便という会社の未来に向けた姿勢を社内外に知らしめる役割も担いつつある。後編では、これまで行ってきた配送高度化の取組みの内容とその苦労、そしてこの取組みの効果について、日本郵便 郵便・物流オペレーション改革部長の世羅元啓氏と、同担当部長の上田貴之氏に語ってもらった。

【前編】資料を吹き飛ばした社長室フライト、日本郵便のドローン配送「始まり」のとき
【後編】会社の未来を社員に伝える活動に、日本郵便がドローン配送に取組む大きな意義
(本稿)

2000世帯すべてに足を運び説明、住民の声から気づいたこと

 日本郵便では、2016年からドローン配送の取り組みを進めてきた。法整備に関する働きかけを行ったほか、2017年からは山間地域を舞台にドローンの配送試行を何度も実施している。

 並行して、無人ロボットによる配送の取り組みにも着手。ドローンで培った知見を応用し、公道や私有地での配送試行を重ねてきた。

 一連の取組みの中で、特に苦労が多かったのはドローンの配送試行だ。まずは2017年2月、福島県南相馬市で最初のフライトが行われた。20社ほどの事業者が集まっての実施だったという。その後は、日本郵便が主体となって地域での配送試行を行っていった。

 とはいえ、この取組みに関わる日本郵便の社員は3、4人しかおらず、試行に適した地域を見つける知見があるわけでもない。日本郵便で行ってきた配送試行は、基本的に郵便局を離陸して、目的地となる住居や指定エリアに荷物を置き、郵便局に帰ってくる形。その距離が長すぎればドローンで往復しきれないし、短すぎては得られるものも少ない。また、電波の入りづらい場所や雨の降りやすい地域も配送試行には適さない。

 その中で配送試行に向きそうなエリアを手探りで調べ、現地に足を運んで電波状況や地形などの環境を確認していったという。

 配送試行をする上では、地域住民の理解も重要になる。たとえば2018年11月、日本郵便は福島県にて「ドローンによる郵便局間輸送」を実施した。同県にある2つの郵便局、小高郵便局(福島県南相馬市)と浪江郵便局(福島県双葉郡浪江町)の間の全長約9kmを、荷物を搭載して往復した。

 当時、航路周辺には2000世帯ほどが住んでいたが、上田氏は「一軒一軒に資料を持ってご説明に伺い、同意をいただきました」と振り返る。

 他の配送試行でも、その姿勢は一貫している。たとえば東京都奥多摩町では2020年から配送試行を複数回に渡って実施しているが、住民との印象的なやりとりがあった。