※ヤマハ発動機の間接材構造改革の事例記事を前編・後編の2回に分けて掲載している。

 企業の事業活動に必要な“購買品”のうち、売上や利益に直結しないもの、例えば工具や材料、パソコンや筆記具は「間接材(間材)」と呼ばれる。ヤマハ発動機はこの間材の購入に大きなコストダウンの余地があると考え、「間接材構造改革」を行ってきた。前編では、改革の土台となる仕組み作りの詳細を伝えたが、その土台を整えた上でいざ改革を開始すると、現場から大きな反発を受けたという。しかし、ある活動を境に反発は減り、コストダウンをはじめ確かな成果が出始めた。一体どんな活動だったのか。ヤマハ発動機 調達本部戦略統括部間材調達推進部部長の内山代穂氏が語った。

「改革の必要性」は伝わっていながら、なぜ反発が起きたのか

――ヤマハ発動機では、それまで個人が比較的自由に購入していた間材、特にパソコンや筆記具といった「一般間材」の改革を進めてきました。具体的には、社員が購入できる品物のスペックや商品を品目ごとに細かく定め、購入には「Ariba」というシステムを通す形に変更。しかし2019年4月から新制度を現場に落としたところ、猛反発を受けてAribaの利用も進まなかったと伺いました。ここまでが前編の内容です。反発が大きかったのはなぜでしょうか。この改革を行う必要性を現場が感じていなかったということもあるのでしょうか。

内山 代穂/ヤマハ発動機 調達本部戦略統括部間材調達推進部部長

1998年ヤマハ発動機入社。直接材の調達バイヤー、調達戦略企画、海外駐在を経て2020年より間接材調達を担当。
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内山代穂氏(以下敬称略) 改革の必要性は現場に伝わっていたと考えています。私たち製造業はコストダウンの重要さを理解していますし、この活動がそれにつながるのは明白でした。また、ある程度個人の判断で間材を買えた従来の状況は、会社のガバナンスやコンプライアンスの面でのリスクもあったのです。

 新たに取り入れたAribaもすでに世の中に浸透しているシステムであり、今までの購買方法より効率的なのは疑いようがない。こうしたことは何度も現場に伝えてきましたし、理解していたはずです。

 しかし、これらの正論をぶつけても現場は動かなかったのです。一般的に多くの人は、新しい仕組みの方が良いと分かっていても、慣れ親しんだやり方を変えたくないと思ってしまうものです。間材改革を行おうとすれば、どの企業もこの問題に直面するのではないでしょうか。特に、ヤマハ発動機は良くも悪くも現場が強い会社です。1年近くは改革が浸透せず、進捗の目安となるAriba利用率も進みませんでした。

――その中でどのような活動を行い、成果を出していったのでしょうか。

内山 現場が“やらざるを得ない状況”を作るしかないと考えました。まずは役員参加のステアリングコミッティを開催し、この改革をやり切るという経営陣のコミットメントを得ました。その結果、各事業本部長レベルの改革に対する影響力、意識が大きく変わってきます。

 さらに効果的だったのは、本部長以上に送った月1回のガバナンスレポートです。各部門の調達時のAriba利用率など、間材調達データを配信し、全社平均や他部門との比較ができるようにしました。すると、利用率が低い部門の本部長は「他部門に負けたくない」「自部門が全体の足を引っ張るのは避けたい」と考え、取り組み方に変化が生まれてきます。

――部門ごと比較・競争することで、意識が変わっていったと。

内山 併せてAribaの操作方法や賢い使い方(Tips)を社内SNSで毎月発信し、ユーザー側のボトムアップも図りました。「Ariba便り」と名づけ、入社2年目の女性社員を編集長に据えて、分かりやすく柔らかい雰囲気で伝える形に。編集長はAribaのインストラクターも兼ねており、問い合わせた社員にアドバイスをすることもあります。

 これも徐々に成果が出ました。実は最初の編集長を私が務めたのですが大失敗で(笑)。私のような人間が硬い雰囲気で伝えるより、若い社員が柔らかく伝える方が現場も取り組みやすいのでしょう。

 一方、Ariba利用率の低い部門や社員には「取締り活動」という名のヒアリングを実施し、なぜ利用しないのか、その理由や率直な意見を聞きながら改善を図っていきました。一種の啓蒙活動と言えるかもしれません。

――利用が進まない部門・社員には直接アプローチをとったわけですね。

内山 さらに、先に述べたこの改革の必要性、もともとの趣旨や目的、業務変更点といった改革の魂の部分についても、初期に実施したeラーニングを改めて全社員に実施しました。Aribaで購入できる品物が掲載されたカタログの拡充も行い、掲載品目数を増やすことで、Ariba利用率やユーザー満足度を上げていきました。

 なお、これまではAribaの利用率や利便性を上げようとカタログの品数を増やすことに力を入れてきましたが、増やし過ぎると以前のような「個人の買い物」と変わらなくなってしまいます。今後は商品数を絞り、ヤマハ発動機として買うべき物をより細かく定義していくフェーズだと考えています。