技術開発本部 コア技術研究開発センター デジタルツイン推進室 室長の柴﨑健一氏(左)と、同じくデジタルツイン推進室 グループマネジャーの千布剛敏氏(右)

 軸受の開発・製造を日本で初めて成功させて以降、100年以上にわたり革新的な技術・製品を生み出してきた日本精工。2022年4月にはデジタル変革本部を新設し、全社的にDXへの取り組みを統合して進めているほか、同社独自の開発手法である「リアルデジタルツイン」を活用した技術面でのDXにも注力している。この「リアルデジタルツイン」を推進する技術開発本部 コア技術研究開発センター デジタルツイン推進室 室長の柴﨑健一氏と、同じくデジタルツイン推進室 グループマネジャーの千布剛敏氏に、「リアルデジタルツイン」や技術面におけるDXについて聞いた。

部門の壁をなくしたプロジェクトで顧客の課題解決に努めるのが理想

――お二方が所属するデジタルツイン推進室は、技術面からDXを推進する部署ですが、DXに取り組むようになったきっかけを教えてください。

柴﨑 デジタルへの取り組み自体は、以前から行っていました。例えば、2019年に設立された「NSKソリューションラボ」(以下、NSL)は施策の1つです。こちらは、エンジニアがコンピューターソフトの使い方や現象解明の方法などを相談できるコワーキングスペースで、現象解明方法の指導、適切なシミュレーションソフトの選定と活用方法の提案などOJTのような育成を行う場所です。当初は空き時間に行うボランティア的な活動でしたが、2021年2月に「デジタルツイン推進室」を発足させ、本業として行えるようになりました。 そこから徐々に活動を広げていきまして、2022年4月にデジタル変革本部が設立されたのを機にDXへの全社的な取り組みが本格化しました。全社的な基幹システムの刷新のほか、生産領域や販売領域、品質領域など、さまざまな面から変革していこうという流れの中に、研究開発、設計領域のデジタルトランスフォーメーションとして、われわれの取り組む「リアルデジタルツイン」という活動も一つの柱として合流することになりました。

――当時、DXを推進するためのステップは設定したのでしょうか。

柴﨑 レベル1からレベル5まで設定しています。レベル1として、まずはNSK(日本精工)全体の現象解明への取り組みを広げるための見える化ですね。既成概念を打ち破るようなソリューションを生み出すには、やはり本質を知らなければいけない。そのために必要なのは現象解明なのですが、どうしても時間がかかったり、水面下の活動になってしまいがちです。また、短納期で行う必要があるため、思い付きの対策でお茶を濁すことが多くなっているという危機感があり、現象解明をしっかりできる会社にしたいという思いがありました。

 現象解明に取り組む人の数を増やしていこうということで設置されたのが、先ほどのNSLです。どのくらいの人が現象解明に取り組んでいて、どんなテーマで現象解明をしているかを明確にして、さらに、どんな現象が解明できたのかも体系化して整理し、知識の共有を目指そうということですね。

 レベル2は、事業への貢献です。お客さまの課題を解決できるような、よい製品やサービスを生み出すために現象を解明して、的を射たソリューションを発想できるように開発を加速させていく。その結果、多くの特許取得や製品開発につなげるのが目的です。

 その開発で得た学びを体系的に整理し、共有・保有して別の事業に再利用できるようにするのがレベル3です。

 レベル4は、現状の技術の限界を把握して、それを突破するための深掘りをする。つまり、世界で最先端の現象を解明して、ソリューションを生み出すということですね。

 レベル5は、部門間の壁をなくして助け合いを活性化させ、NSLからいろいろなプロジェクトが生まれる状態を目指します。リアル実験が得意な人、計算が得意な人、アイデアを思い付くのが得意な人などが集結し、お客さまの課題に対してプロジェクト的に取り組めるようになるのが理想です。

――DXを進める中で、直面した課題はありますか?

千布 新しいことを行う際に、総論としては賛成でも、実際に取り組むとなると、部署ごとに事情が違うという点がネックになってきます。現在は、それを一つ一つクリアしていっている状態ですね。

柴﨑 現在、9つの技術センターを横串で通した組織になっています。各センターの中にリアルデジタルツインを推進するリーダーを設定し、その人たちにもデジタルツイン推進室に兼務で入ってもらい、全体で議論しながら進めようとしているのですが、総論賛成でも、例えば、スキルマップを作って公開したら相談しやすくなるのではないか、など各論に入ると、「うちのセンターは、特別な事情があります・・・」ということになったりします。

――そうした課題解決のために行ったことは?

柴﨑 最近、改めて思うのは、腹を割ったワイガヤのディスカッションの重要さです。それも、HOWの話になると衝突しがちなので、WHYについて話し合うことが大事だと感じています。目指すべきところは同じですし、“助け合いの風土を醸成したい”ということに対してはみんな大賛成なので、“何のために”というWHYからワイガヤを始めて、建設的な意見や新しいアイデアをどんどん出してもらうことが重要だと思います。

――きちんと腹落ちすることが大事だということですよね。

柴﨑 そうですね。指図されたことをやるだけだとなかなか腹落ちしないと思いますが、自分で出したアイデアなら自主的に進めることができますから。

大崎(東京都)にある日本精工の本社ビル