ネットワークやメカトロニクス、センサーなどの技術をもとに社会インフラを支える企業として、製品の製造・販売、工事・保守などを幅広く手掛ける沖電気工業株式会社(以降、OKI)。2031年には、創業150周年を迎える歴史ある企業だ。創業時から、電信機や電話機等の製造・販売を行っており、1961年にはトランジスタ式電子計算機を発売するなど、デジタル技術の経験も深い。
そんな同社は、2022年6月に「社会の大丈夫を作っていく。」というメッセージとともにDXの「新」戦略を発表、併せて埼玉県本庄市に同社DX新戦略のフラッグシップファクトリー「本庄工場新工場(H1棟)」を稼働させた。矢継ぎ早にDXの施策を発表、実践する同社の意気込みを、同社の専務執行役員 デジタル責任者(CDO) 坪井 正志氏に聞いた。
OKIのDX新戦略はAIと外部化がポイント
まずOKIが、2022年6月に発表したDX新戦略について坪井氏に説明してもらった。その全体像はA4、46ページにもわたるが、俯瞰して見てみるとその概要は1枚に見ることができる。
「これが今回の一番重要な部分で、4象限と言っているところです。縦軸にビジネスのありよう、横軸に強化内容を設定してあり、左側が内部のDX、右側はお客さまを支援するDXに当たります。そして左と右は個々に存在するのではなく、両者は『外部化』という考え方でつながっています」と坪井氏は概要を説明する。本4象限に記載されていることは、どれも全てOKIのDX新戦略であり、4つのうち左側の2つはOKI内部のDX、右側の2つはOKIの顧客に役立つDXとされている。そして内部DXと顧客向けDXは「外部化」というキーワードでつながっているというわけだ。見たままを解説すると上記のようだが、ここで4象限を内部から外部に向かって簡単に紹介したい。
OKI内部のDX(左上):第2象限「組織の改革」
OKIは以下のような形で組織を改革するという宣言、主として人材や組織のありように関する。
・「Yume Pro(OKI内の呼称)」の実践=全員参加型のイノベーション創出活動
・イノベーション・マネジメント・システムでもあるISO56000の取得。アジャイルの取り入れ
1人の天才に期待するのではなく、全社員がイノベーションを目指せる組織、顧客と一緒にイノベーションを作れる体制を目指す。
OKI内部のDX(左下):第3象限「業務プロセスの改革」
OKIは以下のような形で組織を改革するという宣言、主として工場や生産拠点のありように関する。
・バーチャルOne Factory=OKI所有の国内外生産拠点を1つの工場に見立て生産性工場を目指す
・トータルでゼロ・エナジーを可能にし、AI、IoT、ロボットを駆使したZEF実現を目指すフラグシップ工場の稼働(ZEF=Zero Energy Factory)
既存のOKIモノづくり基盤である生産拠点を、より効率よく、SDGsを可能にする姿に変革する。
OKIは、このように内部のDXに取り組み、成果を上げていくと宣言している。この内部DXのキーワードは「全員参加」「イノベーション」「モノづくり」「環境対応」と言える。1人の天才に期待するのではなく、全員によるイノベーションの創出を、モノづくりの現場に発生させ、そこにサステナブルな要素を必ず考慮するという流れだ。
特に同社では、イノベーションの創出を「Yume Pro」と称して、全社員に参加を呼び掛けている。その具体的活動の一つにビジネスアイデアコンテスト「Yume Proチャレンジ」がある。坪井氏によれば「Yume Proチャレンジは中核社員が自分たちで引っ張る形で行っており、提案数も右肩上がりで増えている」とのこと。同社内でもイノベーションの下地が育ってきていることを紹介する。
そして、こうした過程の中で得られるDXのノウハウや、DX的な製造プロセス、新しい機器などを自社内部にとどめて置かず、積極的に外部に展開することもOKIのDX新戦略としている。「OKIでうまくいきましたから、皆さんにも役立ちますよ!」という感じだ。これを同社では「外部化」と呼び、外部化については、以下の2象限が想定されている。
OKI外部向けのDX(右上):第1象限「新ソリューション創出」
・AIエッジ戦略。AIエッジコンピューター「AE2100」等の製造・販売
現場レベルで役に立つデジタル施策を、ソリューションや具体的な機器という形で顧客に提供する。
OKI外部向けのDX(右下):第4象限「既存ソリューション強化」
・フロントシフト。小売や店舗のフロントの接客部分に効果的なデジタル施策を提供
・ビジネスプロセスサービス。顧客の既存製造ラインの、例えば「保守・運用」といった任意の部分をアウトソースで対応、顧客はライン中のコア部分に集中できる
OKIが持つ多種多様な製造ラインのノウハウやデジタルの知見を、顧客の製造ラインに活かす取り組み。
自社のモノづくりラインにおける課題は、きっと他社でも課題に違いない。ならば、自社の解決策が他社にも効果的という発想だ。ただ、自社成功例の他社有効活用は、偶然うまくいった事例も多く、明確に自社の戦略として打ち出すのはかなり勇気がいる。OKIの場合は、偶然の部分があっても普遍化してシステム化し、それらをデジタル活用で積極的に推進することを明確に打ち出した点が特徴と言える。ちなみにOKIがこのような発表ができるのは、過去に顧客と一緒に開発を行った経験値が、多種多様で豊富だからといえる。