アップルが中国製造を維持してきた理由

 ただ、業界関係者はアップルが長年、中国での製造を維持してきたのには相応の理由があると指摘する。その1つは、十分に訓練された豊富な労働力だ。インドを除けば、中国の熟練した労働力人口はアジアの多くの国の全人口を上回っているという。

 また、中国は米国と比べて低コストだ。部品サプライヤーのネットワークも充実しており、他国でこれらを再現するのは難しい。中国では地方政府がアップルと緊密に連携している。EMS企業がスマホ「iPhone」などの電子機器の組立業務を円滑に行えるように土地や労働力、物資の確保を支援しているという。

 アップルにとって中国にはもう1つメリットがある。市場としての規模の大きさだ。アップルは中国で製造したiPhoneやノートパソコンなどをそのまま現地で販売できる。中国市場はアップルの世界販売の約5分の1を占めている。

中国に次ぐ拠点としてインドに注目

 こうした中、アップルは中国に次ぐ製造拠点としてインドに注目している。人口が多く低コストという理由があるという。台湾の鴻海や、緯創資通(ウィストロン)はすでにインド工場を持っており、主に国内市場向けのiPhoneを製造している。アップルは22年4月、現行モデル「iPhone 13」のインド生産を開始したと明らかにした。現在は、輸出向け製品の可能性も含めインドでの生産拡大について複数のサプライヤーと協議しているという。

 ただ、ウォール・ストリート・ジャーナルは、インド政府と中国政府が冷え込んだ関係にあり、中国を拠点とするEMS企業がインドに工場を持つことが困難だと報じている。そのため、アップルと取引のある中国EMS企業は、ベトナムなどの東南アジアの国々にも注目しているという。

 香港のカウンターポイント・リサーチによると、インドでは21年に世界のiPhoneの3.1%が製造された。この割合は22年に6~7%に伸びる見通しだ。だが、残りのほぼすべては依然中国が占める状況だとウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。

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