3年後の目指す姿を描く

 品質改革プロジェクトの最初の活動として、メンバーのベクトル合わせをするため、工場の品質改革の「目指す姿」を描いた。プロジェクトメンバーは合宿を行い、工場の目指す姿を真剣に検討し、本音で話し合った。また、その話し合いの過程で部門間の一体感も生まれた。

 合宿でまとめた目指す姿は、「再発防止の一歩先を行くクレーム未然防止型の工場になる。そのために、現場が主役となって全ての工程で品質の作り込みを実現する。クレームは原因が究明され、確実な対策がなされる。未然防止のための品質リスクマネジメントが機能し、品質意識とリスク感知力の高い作業者が働く職場が実現できている」というものだった。

 また、この目指す姿を実現するため、初年度から3年間で実施すべき活動のマスタープランを組み上げ、「品質改革は現場が主役」というキーワードのもとに、初年度は以下の3つの活動を進めるという合意形成がなされた。

① 現場は自工程で品質の作り込みを完結し、後工程に不良品を流さない
 これを「クオリティゲートを守ろう作戦」と名付けて展開した。
② 再発防止のための原因究明を品質改革プロジェクトが参加し徹底して行う
 これを「真の原因を究明しよう活動」として展開した。
③ 品質を維持するために必要とされる設備の洗浄や分解の作業性を改善する
 これを「製造・設備部門一体で生産性と品質を改善しようモデル」の構築として展開した。

クオリティゲートを守ろう作戦

 品質クレームは、品質不具合製品が工場から流出し、顧客のもとで顕在化したものという理解に立つ必要がある。従って、各工程が「自分の工程で品質の作り込み」を行い、不良品を後工程に流さないことがクレーム撲滅につながるという理解を改めて共有化した。

 この「自工程で品質を作り込む」ことを実現するため、プロジェクトが考えたのがクオリティゲート作戦である。クオリティゲートは現場の各工程の出口にある「品質の門」という意味で、「良品」しかこの門を通って後工程に流すことはできないという発想のもとに設置する。例えば、「混練の工程」では仕上がり品の品質状態を「混合物の均一性、異物なし、後工程の処理条件を安定化させる粘度」といったように複数項目を定義した。

 今まであまり品質を意識してこなかった「容器の洗浄工程」でも、『もし、洗浄だけを行っている会社があれば、その会社は「最高の洗浄品質」を考えるはずだ。従って、その品質状態を特定しクオリティゲートとして設置しよう』という発想で展開した。

 この作戦は工程の出口で検査を強化しようというものではなく、むしろ、検査しなくてもいいように「工程内で品質を作り込む」という発想で進めている。そのため、物理的に本当の門が存在するわけではなく、門に見立てた、仕上がり品の品質状態を記載したボードであったり、吊るしの看板を各工程の出口に設置し、その状態を実現するために「工程内の作業がどうあればいいのか、現在の標準手順で大丈夫なのか、今の設備管理のままでいいのか」といったことを検討し、自工程内の品質不安定部分を払拭することを目的としている。

 ゲートの設置は2カ月で完了し、3カ月目からは、自工程で品質を作り込む活動に移行した。その結果、今までの「品質にバラツキがあっても、後工程で加工されるから大丈夫、最終検査でチェックされるから大丈夫」といった意識がなくなり、「自工程で品質を作り込む工場」という目指す姿に近づいた。作戦開始5カ月後には工程不良の発生割合が大きく下がり、品質不良コストの削減にも寄与し始めた。