今回は樹脂関連の生産財メーカーについて紹介する。この企業は売上2倍を5年間で達成することを目標としており、そのために、開発、営業、生産、購買、物流部門が一体となって推進している。

当初、2倍を本気で目指す人はいなかった

 売上2倍は、創業50周年を迎えるにあたって大きな飛躍をするための目標で、かつ経営幹部候補を徹底的に鍛えるための目標でもあった。ただ残念ながら、この目標を掲げた当初は、誰もが「お題目」と思い、本気で取り組もうとする人はいなかった。経営企画部門が、何回かの合宿を企画し、その中で売上2倍検討会を開催したが、事業部長クラスでさえ本気で取り組むメンバーは少なく、ただ時間だけが経過した。

 そこでトップは、企業内の全機能部門が知恵を出し合い、市場環境、競合状況などを踏まえた施策を連携して推進していくために、従来のマネジメントスタイルを大きく変えることにした。

事業部が定めた4つの方向性

◆事業部長のリーダーシップ発揮
 F社には、6つの事業部がある。売上2倍戦略の検討では、各事業部を束ねる6人の事業部長が推進リーダーとなって、検討を進めた。F社全体として売上2倍を狙うわけだが、この売上目標を経営会議にて各事業部に割り付けし、各事業部長が責任を持つ目標とした。

 まず、各事業部が進めたのは売上2倍の方向性検討である。単に2倍と言っても、どちらの方向に進んでいけば2倍になるのか、漠然とアイデア出しをしていっても、当然到達しない。そこで、売上倍増に向けての方向性を4つに分けて考えることにした。

 4つの方向性とは、
①既存製品を既存顧客に販売することで拡販を狙う
・既存顧客での断トツシェアナンバーワンのために、競合製品との差別化QCD戦略(クオリティ・コスト・デリバリー)の具体化
②既存製品を新規顧客(新規用途)に販売することで拡販を狙う
・既存顧客のライバルや既存顧客の関係会社などへ入り込むための、製品競争力(QCD)向上と営業戦略の具体化
・既存の製品を、別の用途として他の業種へ販売するための用途開発
③新規製品を既存顧客に販売することで拡販を狙う
・既存顧客の購買品を総棚卸しして、自社で供給可能なアイテム発掘(できれば、モジュール品として供給を検討する)
・顧客の将来戦略を先取りした製品の開発
④新規製品を新規顧客に販売することで拡販を狙う
・③の新製品を②の新規顧客へどう販売するかの営業戦略具体化
・自事業の強み(コア技術)を生かした完全新規事業立ち上げ
である。

 事業部長は、開発、営業、生産のメンバーと4つの方向性について議論する中で、4つの方向性ごとに「売上目標」を設定し、戦略ストーリーをメンバーと具体化をした。従来は、開発、営業、生産が一堂に会し具体的な戦略ストーリーを検討していく場は無かったため、事業部長としても大きなチャレンジだった。