ある中小製造業A社の話
とある中小製造業の話である。この会社は創業時から、地元で細々と製造販売を行っていた。2代目経営者となってからも、職人の技をうまく活かしながら、大手メーカーの部品生産を行うことで順調に売り上げを伸ばしていった。しかし、バブル崩壊、リーマンショックと景気後退に伴って、大手メーカーからの注文の減少、納入価格ダウン要請があり、会社は売り上げ・利益低下の一途をたどることとなった。
そこで、業務効率化や生産現場の生産性向上といった改善活動に着手し、地道にコストダウンを行い、利益確保に努めた。だが、ものづくりには自信を持っており、「良いものさえ作れば売れる」という風土だったため、生産性や歩留りを上げて、効率よくムダなく作る、といったことには従来あまり関心を持っていなかった。そのため、改善活動を定着化させるには何年もかかった。改善・改革を行っていく人材を育成するということは、A社にとって大きな課題であった。
A社はコストダウン活動を一生懸命に行い、顧客要請に応えるも、売り上げの減少はそれ以上に激しく、固定費をカバーすることが難しい状況に陥った。そこで会社は自社のものづくり技術を生かし、新製品の開発に取り組むことにした。従来の取引先に対して今まで以上の高付加価値品を開発することに加え、自社ブランド品を生産販売しようと考えた。これまで大手メーカーからの厳しい要求に応え続けてきたことにより培われた、技術力と製造力には自信があった。
しかしながら、市場はどこにあるのか、顧客は誰か、彼らはなにを求めているのか、何を開発すれば売れるのか、といった、マーケティング活動には自信が持てなかった。A社はマーケティング力が未熟であることを自覚しつつも、経営幹部による検討会を行い、取引先の要望などを聞き出しながら、なんとか幾つかの製品を開発することができた。試作品を作り、社内に展示スペースを設け、取引先の訪問時には新製品の紹介をした。
これらの取り組みにより、既存の取引先にはそれなりのインパクトを与えることができ、大手メーカーの次期モデルチェンジの際の採用を目指せるようになった。だが、今まで付き合いのない新しい顧客の開拓がなかなかうまくいかった。原因について分析・振り返りを行った結果、マーケティング力、プロモーション力と営業力という課題が如実に明らかになった。
現在は、工場でのものづくり以外の事業や海外生産も視野に入れた既存事業の拡大など、どうやって新しい事業に挑戦していくかに日々チャレンジしている。
このA社のエピソードは、環境が変わり、それに対応するために従来と異なった新しいことをしようとすると、今まで見えなかった弱点や、これまではやらなくてもよかったことが、新たな課題となった例である。