パートナーシップ構築の事例

 ここまで、Trade-offを見つける、そしてパートナーシップを構築するためのポイントを述べてきたが、よりイメージを持っていただくために当社が実践した事例を紹介したい。紹介するのは、農業生産法人の付加価値作業比率向上に向けて、地域の福祉関係者とパートナーシップを構築した事例である。

◆Trade-offの特定

 対象となる農業生産法人では、規模拡大を志向しているものの、人員不足のために技術力のある熟練者がさまざまな作業に当たらざるを得ず、面積拡大しても作業が間に合わない、といった事態に陥っていた。この前提として設備化が難しい農業経営の中では、人を増やして対応することが優先されるものの、技術を持つ人材が少ないという課題があった。

 しかし、調査を進める中で、熟練者の実施している作業の中には、「技術が必要な作業(付加価値作業)」「初心者でも可能な作業」が混在していることが分かった。また、地域内では「初心者」というくくりでみると、働きたくても働き場所がない、という人たちが多く存在していることが分かり、下図のような関係性を見つけることができた。 

◆ パートナーシップの構築

 農業経営と地域住民の負を明確にした後は、パートナーシップの主体を選定し、事例では福祉関係者との協働を選択した。そして、下図の体制を構築することで福祉関係者の農業参画を図っていった。

 体制の構築に加えて、各プレーヤーの役割を明確にするとともに、プレーヤー間の調整やコミュニケーションの場づくり、さらには指標・目標管理まで、PDCAサイクルを構築し運営したことがポイントである。

 以上、これまでのコラムで書いたようにOutside-Inの視点での検討それ自体もSDGs推進に向けては必須となるものの、その実践のためには他のプレーヤーも巻き込み、パートナーシップを構築して臨むことも求められる。

 そのためには、プレーヤー間での目標の共有が必要であり、それが互いのTrade-offを認識することから始まる、というプロセスを大事にしていただきたい。

コンサルタント 大野晃平 (おおの こうへい)

生産コンサルティング事業本部
プロダクション・デザイン革新センター
コンサルタント

環境省 地球温暖化防止コミュニケーター
入社以来、製造業・農林水産業における現場の生産性向上を主軸に中小企業における収益改善のコンサルティングを行っている。
近年では、食品業界を中心に、農作物の栽培・出荷から食品製造での調達・出荷物流まで、フードバリューチェーン各所で幅広く生産性向上・コストダウンによる収益貢献支援、持続可能な経営実現に向けたSDGsビジョン 策定・実行支援を推進している。