“Transforming:変革”を志向したSDGs推進

 前回のコラムでは、日本企業には近江商人の精神が根付いており、自社の既存事業でもSDGsに貢献していることを紹介した。一方、こうしたSDGsマッピング作成のような取り組みでは物足りなさを感じる読者もいたのではないだろうか。そこで、改めてSDGsの本質を考えてみたい。

 SDGsの17のゴールが記載されている正式な文書は、「Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development」(「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」)である。ここで注目すべきは、Transformingという単語が使用されている点だ。変化を表す単語は他にも存在するが、Transformingには、劇的な変化、すっかりと変わるといったニュアンスが込められている。

 これまでの延長線上の活動を続けるだけでは、世界はもはや持続不可能である。価値観を根底から覆すような大胆なシフトを図ることこそがSDGsの本質だといえるだろう。

 このように考えてみると、企業のSDGs推進においても、従来の経済的価値の追求だけではなく、環境的価値や社会的価値を統合した成長を目指す考え方への転換が必要となる。つまり、自社のビジョンと自社のバリューチェーンを取り巻く外部環境の変化、それに伴い、想定される社会課題を正しく捉え、新規事業につなげていく。このような変革が求められている。

SDGs推進に社員を巻き込み活動を展開する

 社会課題を事業活動に落とし込むために役立つ発想が、本シリーズ11回目で紹介した「アウトサイド・イン」アプローチである。サステナビリティ推進のキーワードとして語られ、多くの企業でも「アウトサイド・イン」アプローチを用いて、SDGsに関係する新規事業を検討しているだろう。

 しかしながら、「アウトサイド・インで発想しても、なかなかアイデアが出てこない」「アイデアを実現しようとしても、現場に浸透せずに実効性を伴わない」などの困りごとをしばしば耳にする。SDGs推進部署やトップ層だけの検討では、既存事業の延長ではない新価値を創造する事業を生み出すことは難しい。