そこで、全社的な活動として、若手含めて社員一人一人からの声や知恵を集結させることが重要となる。その理由は以下の3つである。
①現場の最前線で日々、さまざまな情報に触れている
現場にいるからこそ、日々の業務の中で、ステークホルダーが抱えている課題や自社に対する要望をいち早く察知している。
②既存の枠にとらわれない斬新なアイデアが期待される
従来の検討方法では、これまでの延長線上の発想にとらわれてしまう場合やどこかで聞いたようなアイデアしか出てこない場合が多い。社歴が短い社員を巻き込むことで、自社の既存事業にとらわれない柔軟な発想が生まれることが期待される。
③アイデア数を集めることができる
新規事業の検討では、多くのアイデアが選択肢として存在することが前提となるが、限られたメンバーだけではアイデア数に限界が生じる。多様なメンバーからアイデアを募ることで、アイデア数を増やすことが可能となる。
SDGs推進の「自分ごと」化を促す
社員を巻き込むといっても、いきなり活発な意見やアイデアが寄せられることは期待できない。では、自社のSDGs推進について積極的に関与してもらうためにはなにが必要だろうか。
それには当然、
・現場からの声を募集する制度や場を設けること
・さまざまな意見が歓迎される組織風土を醸成すること に加えて、
<社員に対して、SDGs推進の「自分ごと」化を促すこと>
が重要なポイントとなる。
社会課題・顧客課題を正しく捉えることができなければ、そもそも新規事業のアイデアを発想することが難しい。ところが、社員が社会課題に対して無関心であるケースが多い。
一般的に社会課題に対して関心が高いとされるZ世代※1でさえ、実は意識が高い者はごく一部に限られる。事実、マイナビが22年3月卒業見込みの大学生・大学院生を対象に行った就職意識調査結果※2によると、「人のためになる仕事をしたい」「社会に貢献したい」といった就職観を持つ学生は3割に満たない。
筆者もボランティアで学生の就活支援を行っている。中にはSDGsや社会課題の解決に熱い情熱を持っている学生もいるが、本心から仕事を通じた社会貢献を志向している学生は少数である印象を受ける。
社員の社会課題への関心を高めるためには、自社理念や存在意義の浸透、自社事業とSDGsの関係性の整理、社史の棚卸しが有効である。これらを通じて、まずは自社のビジネスと社会課題が密接につながっていることを伝えていくことが必要である。
近年では、ボランティア、副業、異業種との交流を推奨する企業も増えているが、これらの取り組みは、社員が社会課題をキャッチする上で非常に重要となる。自社が貢献できる社会課題は、既存事業の周辺領域とは限らない。日々の業務とは異なる人と接することで、新しい気付きが期待できる。
SDGs推進の「自分ごと」化には、SDGsの同業他社事例や先進事例の紹介も欠かすことができない。他社事例を知ることは、自社に転用できるアイデアを思考するきっかけとなる。これにより、会社内の活動、生活の中で日々触れた社会課題を、自社の強みを発揮していかに解決するのか、新しいビジネスを発想するセンスが磨かれる。
これからのSDGs推進には、“Transforming:変革”が求められるが、検討においては参加者がSDGs推進部署やトップ層に限られる必要はない。新価値の創造には、社員一人一人からの意見を集めることが重要となる。これからの時代を開いていく人たちから寄せられた価値観を根底から覆すような大胆な変革アイデアによって、企業の持続的な成長および持続可能な社会の実現が達成されることを願っている。
※1厳密な定義はないが、概ね1990年代なかばから2010年ごろに生まれた世代を指す。
※2株式会社マイナビ「2022年卒大学生就職意識調査」
コンサルタント 山本詢(やまもと しゅん)
ラーニングコンサルティングユニット HRM革新センター
兼 サステナビリティ経営推進センター
2020年日本能率協会コンサルティング(JMAC)に新卒で入社。入社後は、製造現場の生産性向上から営業業務の改革、人材マネジメント領域のコンサルティングまで幅広く経験。 SDGs関連のプロジェクトでは、地域中小企業の持続的な経営実現のための支援やGHGプロトコルスコープ3排出量算定のコンサルティングを行っている