いかにTrade-offを見つけるのか

 先述の通り、社会課題解決に向けて事業を見直すためには、まずTrade-offを見つけることが重要である。では、いかにしてTrade-offを見つけるのか。日々の営業活動の中で顧客の困りごとを見つけ、その裏側にある社会の困りごとを探る、あるいは日々、自分たちが生活を送る中で見つかることもあるかもしれない。

 実際のところ、方法論は確立されているわけではないが、その考え方としては国連のSDG Compassが活用できる。ご存じの通り、SDG Compassでは企業がSDGsを推進するにあたり、下記5つのステップで考えることを提唱している。

ステップ1.SDGsを理解する
ステップ2.優先課題を決定する
ステップ3.目標を設定する
ステップ4.経営へ統合する
ステップ5.報告とコミュニケーションを行う

 そして、このステップ2の中で、「バリューチェーンにおけるSDGsのマッピング」として、事業およびバリューチェーンにおける正と負の影響を明確にすることを推奨しており、この考え方がTrade-offの発見につながるのである。

 下表にわれわれがコンサルティング時に活用するフォーマットを紹介する。このプロセスの中で、自らの事業の良さだけでなく、社会課題につながる困りごとを見つけることが重要である。

パートナーシップ構築のポイント

 上述のプロセスでTrade-offを見つけた後は、いかにしてパートナーシップを構築し、Trade-offを解決するか、が論点となる。パートナーシップ構築についても、Trade-off同様、確立された方法はまだないものの、ここでも近年、注目されている概念がある。それは「コレクティブインパクト」である。

 コレクティブインパクトとは、2011年にジョン・カニアとマーク・クラマーが発表した「Collective Impact」という論文で提唱されたアプローチであり、「異なるセクターから集まった重要なプレーヤーのグループが、特定の社会課題の解決のため、共通のアジェンダに対して行うコミットメント」のことを指す。

 この定義だけをみると、これまでも途上国の開発支援や災害時の復興支援などさまざまなセクターが協働する場面はあり、目新しいとはいえないだろう。しかし、コレクティブインパクトが有効であるといえるのは、そのアプローチが狙いをもって、つまり、仕組み化された活動として推進される点にある。

 2019年に発行された「ハーバード・ビジネス・レビュー」の中で、コレクティブインパクトのアプローチとそれまでの協働との違いは大きく5つであると紹介されている。これらの条件をそろえてパートナーシップを構築することができれば、Trade-offの解決につながっていくだろう。

1.その課題に取り組むために関わりうるあらゆるプレーヤーが参画している
2.成果の測定手法をプレーヤー間で共有している
3.それぞれの活動が互いに補強し合うようになっている
4.プレーヤー同士が恒常的にコミュニケーションしている
5.すべてに目を配る専任のスタッフがいる組織がある