TUMも最後まで死力を尽くした。最終ラップの第4コーナーを抜けたあたりでタイヤのグリップを失い、勢い余ってゴールライン付近でコースアウト、何とグリーンゾーンを反時計回りに2回転、時計回りに1回転して無傷でコースに復帰するというド派手なパフォーマンスで熱量の高いレースを締めくくった。

(動画)決勝レース、「TUM」vs.「TII EURORACING」の様子(出所:IACの広報資料より)

 今回の最高時速173マイルという記録は昨年10月にTII EURORACINGが記録した時速175.96マイル(約283.2キロメートル)にはわずかに及ばないものの、最高速度がコースの直線部分の長さと正の相関があると考えると(インディアナポリスモータースピードウェイが直線コースの長い全長2.5マイルに対し、ラスベガスモータースピードウェイは直線コースの短い全長1.5マイル)、実力伯仲のトップ3チームは実質、最高速度の新記録更新に相当する優れたパフォーマンスを示したと断じて良いだろう。

「しかめっ面をしないサステナブル戦略」があっても良い

 決勝レースが終了したのは夕方4時近かった。主催者ESNの社長兼CEOのポール・ミッチェルがコース上の超チームに駆け寄って、優勝のPoliMOVEに賞金15万ドル(約1700万円)、惜しくも準優勝のTUMに賞金5万ドル(約570万円)を贈呈した。

土壇場の最終ラップで最高時速173マイル(約278.4キロメートル)を叩き出して優勝したPoliMOVE(上)とラスベガスでもレベルの高い走りを披露した準優勝のTUM(下)(出所:IACの広報資料)

 今回のCES 2022では、筆者は基調講演や記者会見を行なった企業が示した良心や品格、事業の成長と社会や環境との両立を目指すサステナブル戦略について深く考えさせられることが多かった。向き合うべき課題のとてつもない大きさから、私たちはどうしても「しかめっ面」になって考え込んでしまいがちだ。

 しかし、この日だけは砂漠のど真ん中にあるサーキットで、強い日差しを浴びながら、自動運転車による少し長閑な展開のレースを観戦、難しいことをしばし忘れて心の持ち方をシフトダウンできた気がする。

 未知なものへの好奇心や知的な探求心は人間の本質的な欲求だ。IACの自動運転レースのように「しかめっ面」にならないサステナブル戦略もあって良いのでは・・・。黄昏の中、バスに揺られ、虚飾に彩られたラスベガスの街に戻りながら、ふとそう考えたのである。

◎コロナ下のリアル開催「CES 2022」徹底レポート
(第1回)「アボット、GM、サムスン電子、最も称賛されたCES基調講演は?」
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/68460
(第2回)「成長の追求からサステナビリティへ、CESに見たテック企業の変化」
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/68461