F1の世界で、ドライバー(レーサー)を守るための安全対策や厳しい燃費制限との戦いが数多くのイノベーションを生み出し、時間をかけて市販車に技術的な形でフィードバックされたことはよく知られている。商用の自動運転の世界でも同じような効果が期待されているのである。

 主催者のESNはまた、IACで開発されたアルゴリズムはチームで秘匿したりせず、原則公開するとも表明している。自動運転の関連企業から大きな注目を浴び、短期間で1億2000万ドル(約132億円)もの寄付金を集めて、商業的には成功したと言われるIACだが(注)、その根本には社会全体やテック業界発展への目配りがあり、サステナビリティの発想を持っている。このことこそ、筆者がIACの活動に共感して現地取材を思い立った最大の理由である。

(注)今回のIAC@CESもLiDARの技術開発で著名なルミナー社とEURORACINGのスポンサーでもあるアラブ首長国連邦アブダビ政府系のテクノロジーイノベーション研究所(Technology Innovation Institute)がプレミアスポンサーで協賛している。

「ダラーラAV-21」とはどんなレーシングカーか?

 レースについてレポートする前に、IACで各チームが使用している車両について簡単に説明しておこう。

 レースで使用される車両はイタリア製の「ダラーラAV-21」。インディカーレースで使われる同社製のDW-12より一回り小ぶりだが、本格的なレーシングカーである。ホンダ製の2リッター4気筒エンジンを搭載し、最高出力は388馬力にも達する。

 タイヤもブリヂストン製で、日本からのチームエントリーがない大会でジャパンブランドの製品が黙々と仕事をこなしているのを見るのはいささか複雑な気持ちではある。

ダラーラAV-21(出所:IACの広報資料より)

 自動運転レーシングカーの核心部は下の写真のようになっている(写真はカウルを外した状態)。ドライバーの代わりに載るのは、自動運転を制御するオンボードコンピュータだ。

LVCCのIAC@CESブースに展示されていた自動運転レーシングカーの核心部(筆者撮影)

 IACの広報資料によると、心臓部のECU(Electronic Control Unit)はエヌビディアのGPU Quadro RTX 8000IACとインテルのCPU Xeon E 2278 GEだ。また人間の目の役割を果たすのはルミナー社製LiDAR3基、Aptive社製ミリ波レーダー3基、AVT社製Mako-Gシリーズカメラ6基である。その他、ピットとのコミュニケーションはシスコ社のシステムが担っている。

 つまり、IACは自動車レースとしてはハードウエアの仕様の均一な純粋ワンメイクレースである。レース中、プログラムは完全なオフラインで動作し、オペレーターが操作を行うことはない。つまり、チームのパフォーマンスの優劣は、各チームが開発するアルゴリズムの完成度でほぼすべてが決まるということになる。

エントリーは5チーム、周回中の最高時速で勝敗が決まる

 当日、本番のレースにエントリーしたのは、事前にアナウンスされていた通り以下の5チームである(ABC順)。

・「Autonomous Tiger Racing」 オーバーン大学(アラバマ州)
・「KAIST」 韓国科学技術大学(韓国)
・「PoliMOVE」 ミラノ工科大学(イタリア)、アラバマ大学(アラバマ州)
・「TII EuroRacing」 モデナ・レッジョ・エミリア大学(イタリア)、テクノロジーイノベーション研究所(アラブ首長国連邦)、前回の準優勝チーム(「EURORACING」から名称変更)
・「TUM Autonomous Motorsport」 ミュンヘン工科大学(ドイツ) 、前回の優勝チーム