eNairaへの注目

 このようにeNairaは、既に発行ないし試験発行されている他の中央銀行デジタル通貨と共通する特徴を持っています。すなわち、①現金と同じく金利はつかないこと、②銀行などを通じて間接的に発行されること、③IDとの紐付けの度合いなどに応じて利用額に制限が設けられていること、です。

 中央銀行デジタル通貨は、スウェーデンや英国などの先進国で、まずその可能性が注目されました。しかし、現実の発行に踏み切る国々は、中米カリブ海諸国やアフリカなど、むしろ途上国や新興国にみられています。これは、銀行口座を持たない人々に金融サービスを普及させる「金融包摂」や、デジタル化を通じた経済のキャッチアップ、出稼ぎ労働者などによる海外送金のコスト引き下げなど、先進国よりもむしろ途上国や新興国で切実な問題が、中央銀行デジタル通貨への期待に結び付きやすい面があるためと言えます。

 なお、ナイジェリア中央銀行は、中央銀行デジタル通貨の発行が銀行の預金を侵食し、資金仲介に影響を及ぼすリスクなどを認識し、今後このようなリスクが顕在化することがないか注意深く見ていくとも表明しています。eNairaは、報道によれば必ずしも肯定的な評価ばかりではないようですが、2億人以上の人口と独自の通貨を持つナイジェリアのeNairaが今後どの程度実際に使われていくのか、また、国内の銀行システムなどにどのような影響を及ぼすのか、注目を集めています。

◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。

◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。