eNairaの特徴

 では、eNairaの特徴を見ていきましょう。

 まず技術面では、eNairaは分散台帳技術(DLT)としてハイパーレッジャー・ファブリック(Hyperledger Fabric)を採用しています。

 eNairaには金利はつきません。これは、既に発行されているバハマのSand Dollarや、試験発行中の中国のデジタル人民元と同じです。

 eNairaは、免許を受けた金融機関(licensed FIs)を通じて間接的に発行されます。このような「間接方式」の採用も、既に発行、ないし試験発行中の他の中央銀行デジタル通貨と共通しています。これらの金融機関は、将来的には自ら開発したアプリを通じてeNairaを提供することも想定されていますが、当面はナイジェリア中央銀行が開発したアプリである“eNaira speed wallet”が使われます。

 eNairaの口座は以下の5種類があり、利用者が個人か法人か、また、利用者のIDとの紐付けの度合いなどに応じて、利用できる金額などに制約が設けられています。

 まず、銀行口座を持たず、ナイジェリアの国民識別番号(National Identification Number, NIN)も持たない人が、電話番号と紐付けることで開設できる口座が「ティア0口座」です。国際通貨基金(IMF)によれば、ナイジェリアでは成人の約36%が銀行口座を持っていない中、eNairaがこうした人々への金融サービスの普及を進めることが期待されているわけです。ティア0口座は、一日の取引金額が20,000ナイラ(約5,600円)以内、残高が120,000ナイラ(約33,600円)以内と、かなり少額に抑えられています。

 次に、銀行口座は持っていないが国民識別番号は持っている人が、電話番号および自らの国民識別番号と紐づけることで開設できる口座が「ティア1口座」です。これは、一日の取引金額が50,000ナイラ(約14,000円)以内、残高が300,000ナイラ(約84,000円)以内とされています。

 また、銀行口座を持ち、銀行識別番号(Bank Verification Number, BVN)を持っている人が、銀行口座と紐付けることで開設できる口座が「ティア2口座」です。これは、一日の取引金額が200,000ナイラ(約56,000円)以内、残高が500,000ナイラ(約140,000円)以内とされています。ナイジェリアでは2014年から銀行口座を銀行識別番号に結び付けることが求められており、これを本人確認に利用するものです。

 さらに、定期的な支払いを行う人々向けの口座として「ティア3口座」があります。これも銀行口座との紐付けが求められ、一日の取引金額は1,000,000ナイラ(約280,000円)以内、残高が5,000,000ナイラ(約1,400,000円)以内とされています。

4種類の個人向け口座 出典:ナイジェリア中央銀行

 さらに、法人向けの口座として「ティア4口座」があります。これには税識別番号(Tax Identification Number, TIN)との紐付けが必要とされ、規制で要請されたKYC(顧客確認)やマネーローンダリング対応が求められます。

 このように、利用者の紐付けとの強度に応じて利用できる金額に差を設けるやり方も、バハマのSand Dollarや中国で実験中のデジタル人民元(e-CNY)と同様です。これにより、預金からeNairaへの資金流出を抑えたいとの意図も表明されています。