先端テクノロジーへの関心が新たな世界を開く

 山口県の観光スポーツ文化部では、既に雪舟の国宝水墨画への没入体験ができる5GVRコンテンツの開発や、観光スポットでのAR技術の導入、美術館収蔵品のデジタル化を進めるなど、文化体験をコンテンツとしたデジタル技術を積極的に活用し、一般の人に楽しんでもらおうという取り組みを行っていた。担当者である文化振興課文化環境班長の森重信博さんはデジタルに明るく、デジタル技術を使って県の観光文化を盛り上げていこうと推進されていた。「すごく詳しいと思いました。アンテナが高く、先端テクノロジーに関心をお持ちの方が自治体にいらっしゃったので話はスムーズでした」(和田さん)

 では、壁になったことはなかったのか。

「コロナで現地に行けないことが一番大変でした。IT技術やデジタル技術はインターネット上で使うものだという考えがある一方で、古い領域、アナログな物理的な領域でも使える技術であるという当初の目的を実感できたところに喜びを感じました。古いものに対して新しい技術を使っていくというのは、いろいろな産業で必要なことです。歴史のあるものと先端のものが交わることには感慨深いものがあります。製造業や町工場、農業や漁業といった一次産業でも、新しい技術を使える可能性を示せたのがうれしいです」(和田さん)

 そして、和田さんは続ける。「AI研究はアメリカや中国が先行していると言われますが、産業で使うとなると日本とそれほど差はないと思っています。日本は、AIの産業応用の分野で、国際競争力で他国に負けているとは思っていません。日本企業は製造分野が強く、海外から技術を取り入れて自分たちの手で加工していく匠の技、職人の技は日本のあちこちのモノづくりの現場にあって、力があります。その暗黙知化されたものをデータとして蓄積していく、AIが認識できる力になっていくと、日本の産業が強いものになっていくのではないかと思っています」

 古いものと最先端の技術が一緒になることで、日本の未来への希望が見えるような気がする。今回の伝統芸能での試みは、歴史を変えるような大きな一歩なのかもしれない。