「鷺流狂言」(山口鷺流狂言保存会 提供)

 Laboro.AI(ラボロ エーアイ)は、オーダーメイドでAIソリューションを開発する会社だ。学術分野で研究されている最先端のAI(機械学習技術)をビジネスへとつなげ、「すべての産業の新たな姿をつくる」をミッションとして掲げている。さまざまな企業のコアとなるビジネスの改革を支援する国内有数のAIスペシャリスト集団が、狂言の動きを可視化するAIソリューションを開発した。伝統芸能とAIは、果たしてうまくかみ合うのか。

プロボノで指定無形文化財を支援した

 AI技術の受託・開発を行うLaboro.AIが、プロボノを実施した。高額なAI開発のプロボノというのは聞いたことがない。貴重なノウハウを無償提供しようと思ったきっかけは何だったのか。

「AI技術が持っている可能性をより広い領域で示していくことが社会にとって重要ではないかと思いました。ビジネスを前提にすると、現段階ではITデジタル系の比較的先進分野や、大企業の大型案件で活用されるケースが多くなってしまい、限られた方々の技術になってしまいます。AIはいろいろな産業の可能性を持っている技術であるということを示すことが重要ではないか、いろいろな業界の未来が描ければ、それは素晴らしいことではないかと、思い切りました」(マーケティングディレクター和田崇さん)

Laboro.AIマーケティングディレクターの和田崇さん

 まだ創業して6年。社内でかなり議論したそうだが、踏み切った。2021年4月に募集をし、集まった中から山口県の指定無形文化財である「鷺流狂言」の伝承・普及の支援を選定した。なぜ、この案件に決めたのか。

「まずは、社会的意義の大きさです。14世紀に上演されたという記録が残っているほど長く受け継がれてきた狂言という歴史ある文化に対して先端のものが交わっていくという、テーマの重要性、面白さ、興味深さ、そしてインパクトの大きさがあります。ある意味、化学反応みたいなところがあるかもしれません。次に、AI技術はデジタル技術と捉えられ、ITとかネット分野での相性がいいと思われがちですが、実は極めて物理的なフィジカルな場面でもカメラを1台置けばデータが取れる可能性があります。一見、ミスマッチと思われる産業でも使える技術なんだということをお示しできるということもありました。そして、1.5カ月で、ある程度、完結させるという目標を設けましたので、コンサルティングだけで終わってしまっては意味がありません。この期間で開発まで踏み込んで、何かしらのソリューションの入り口まで提供したいと思っていましたので、そのあたりも選ばせていただいた理由です」(和田さん)

 プロボノだからといって、プロジェクト人数を絞ったりはしなかった。通常体制でプロジェクトのスーパーバイザが1人、AIの知識とビジネス知見を兼ね備え、現場に立ちAIコンサルティングを行うソリューシュンデザイナ1人、開発を請け負う機械学習エンジニア1人の3人体制で臨んだ。プロボノ期間として定めた1.5カ月の間、山口県観光スポーツ文化部と、山口鷺流狂言保存会と3者協働で進めた。

「他にも興味をそそられるものや、知的好奇心をそそられる案件はありましたが、限られた期間で、ある程度ソリューションとして示せるものにさせていただきました」(和田さん)

 何年もかかるようなプロジェクトでは、なかなか成果までたどり着けない。AIという期待の大きい技術だからこそソリューションとして見せられることが、社会的にインパクトがあると考え、伝統芸能を選定したのである。