狂言とAIは果たしてマッチングするのか
狂言というのは、能舞台で演じられる伝統芸能で、ユーモラスなせりふ劇である。大蔵流、和泉流、鷺流の3流があり、有名な野村萬斎が和泉流の能楽師だと言えばイメージしやすいかもしれない。その中で鷺流は、徳川家康に寵愛され隆盛を誇っていたのだが、明治時代に宗家が亡くなり断絶してしまう。その頃から、山口県では町衆がその形式を受け継ぎ、今は山口鷺流狂言保存会によって伝承されている。保存会であるため人数も限られ、その広がりには限界があり、いずれ消失してしまうことが危惧されている。
Laboro.AIは、山口の鷺流狂言とはどういうものかという要素を初めにひもといた。姿勢や振り付けといった動きと、音声というせりふに集約されていると考え、まずどちらかを可視化することにした。やりやすさや開発期間から考え、技術進化の速い画像領域を取り組みテーマにすることからチャレンジすることにした。
保存会の狂言演者(先生)の動きと、体験する人(生徒)の動きをそれぞれ認識・可視化するため「キーポイント検出」を行った。本来なら現地に行って先生の動きを動画に収めたいところだが、コロナ禍であったため、保存会の方ご自身に動画を撮影していただき、その画像から頭、肩、肘といった関節の角度などの特徴点を座標データとして出力し、姿勢推定や動作解析に用いられる「キーポイント検出」をした。これはゴルフのスイングレッスンなどで使われる手法だと言えばなじみ深いであろう。お手本となる先生と、体験者となる生徒のそれぞれから検出された特徴点を結んだベクトルの向きを比較し、動きの違いやブレを明確にし、類似度をスコア化することを実現した。
残念ながら、まだ実用化はしていないが、技術的には可能な入り口まではきている。
「今後は、ゲームアプリを作るとか、小中学生や観光客を対象にした普及・教育用コンテンツを開発するとか、エンターテインメントとして楽しむことができるものとしての方向性が考えられます。その第一歩を作り上げたということです。山口県とは今も継続的にお話しさせていただいていて、今回ご提供した開発内容を踏まえてどう展開されるか検討いただいているところです」(和田さん)
オンラインアバターを利用すれば、バーチャルで狂言の衣装を着ることもできる。また、同じ画面に複数人数を映し出すことで、一緒に演じたりすることも可能だ。そうすれば仲間と一緒に体験したり、互いにアドバイスすることができる。もしそれが体験できるのであれば、伝統芸能好きな私はぜひ試してみたいと思った。