G7報告書の内容

 このG7報告書の掲げる13の原則が、どのような実務上の難しさを抱えているのか、いくつか例を紹介します。

 例えば原則3では、CBDCが発行される場合、その利用者のプライバシーを保護し、データの濫用を避けなければならないと書かれています。一方で、原則6では、CBDCが犯罪や資金洗浄に使われないよう設計すべきとも書かれています。この二つを両立させることは、現実には簡単ではありません。CBDCを現金同様に匿名にすれば、プライバシーは保護できる一方で、犯罪や資金洗浄への対応は難しくなります。この報告書では、公的当局によるデータの活用は必要な目的に限定して透明な形で行うべきと書かれていますが、これを具体的にどう実現するのかは難題です。

 また原則4では、CBDCのサイバーセキュリティの重要性を強調しています。同時に原則5では、CBDCは既存の決済手段と共存すべきと記し、また原則9では、CBDCはイノベーションを促すべきと書かれています。これらも、両立は決して容易ではありません。サイバーセキュリティの確保だけを考えれば、参加者を絞り、他のシステムとの接続を極力避ける方が安全とも言えるからです。

 さらに、原則12では、CBDCがクロスボーダー決済の改善に役立つかもしれないと述べています。同時に原則7では、国際金融システムの安定を確保する観点から、非居住者のCBDCの利用に伴うリスクも指摘しています。これらも、「非居住者によるCBDCの利用を促進すべきか、それとも抑制すべきか」という難題につながります。

 このように、G7報告書は、ここに掲げられたさまざまな原則の間にトレードオフがあることを正面から認めています。そのうえで、「あらゆるCBDCの設計や実施において、これらの公共政策上の原則に関するインプリケーションを検討し、慎重にそれらのバランスを取ることは不可欠」「こうした原則の優先順位の付け方を検討することは重要」と述べています。

CBDCの設計を巡る「トレードオフ」
注:Public Policy Principles for Retail Central Bank Digital Currencies