デジタル化社会のトレードオフ問題

 G7報告書が掲げるトレードオフの多くは、単にCBDCにとどまらず、デジタル化とデータ社会に広く共通する課題です。

 例えば、データの活用とプライバシー確保の両立は、あらゆるデータに共通する問題です。日常生活におけるeコマースやSNSなどの利用によって無意識のうちに吸い上げられている個人データの保護やガバナンスをどうすべきかといった問題には、現在、多くの国々や主体が直面しています。

 また、データはたくさん集めるほど、その掛け合わせによって用途が広がり、有用性が増す面があります。したがって、利活用だけを考えるならば特定の主体にデータを沢山集めた方が良いとも言えますが、それは一方で独占や情報格差、サイバーセキュリティなどの問題につながります。

 さらに、デジタル化は国境などの地理的制約を超えることを容易にし、このことは人々の利便性向上に寄与し得るわけですが、一方で経済安全保障などの問題も生むことになります。

 マネーが経済の動きを示すように、デジタル通貨の問題は、経済のデジタル化の問題を象徴する面があります。このような視点からCBDCを巡る国際的な議論を眺めることで、有益な示唆が得られるのはないかと思います。

◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。

◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。