AI×ピープルアナリティクスが可能にするもの

 塚本氏自身は、前述のようにデータアナリストとしてアカデミアにいた。そこからデータとビジネスの利活用、どうつないでいくかというところでデータを扱ってきた。しかし、企業の人事情報にふれることはなかなか難しい。そもそもクローズにされるべき情報で、外から容易に触らせてもらえるものでもない。

 アッテルというサービス自体のリリースは2019年7月だが、実は創業は約1年前の2018年4月。約1年空いているわけで、その1年間でいろいろな企業と共同研究というような形でデータ分析していったという。

塚本 コンサルティングのような形で入らせていただき、大量のデータを分析させていただきました。データ分析によって何が言えて何が言えないのか、そこで選別させていただきました。100社さんくらいお手伝いさせていただく中で、おそらくこれは世の中で共通に言えることで、このアプローチでいけば解決できるのではないか、というものをプロダクトに落とし込んだという感じです。

 定量化のモデルはかなり作りきったものになっている。分析の精度には連続性といった部分も重要になるため、一度出してしまうと変えにくいのだ。逆に、出すまでにどれだけ精度を上げられるかというところが勝負になる。ただ、その人がどういう資質なのか、自社でどのくらい活躍しやすいのかという分析であったり、会社ごとのアルゴリズムは年々チューニングしてきているという。

 実際、アッテルを利用することで採用基準を変えて成功した企業も多い。例えば、営業の人材として、いわゆる外向的なコミュニケーション能力が高い人を採用していた会社がデータ分析をした。すると、実は定着している人はそれとは真逆であることが分かり、採用基準を変えたところ、半年以内の退職者がゼロになった。

 また、上司との相性も含めて分析することで、課題となっていた退職率を下げることができた会社もある。辞めやすい人たちのタイプを割り出し、彼らを何とか定着させることができないかという発想の下、相性のいい上司にアサインした結果、4分の1ほど退職率が下がった。データを使うことでこうした成功事例が出てきている。

 ただ、いずれも、まず自社の状況やカルチャーを知ることが最初のステップになっていることは注目しておきたい。例えば、よく言われるT型人材。個人の資質として見ると非常に良いT型人材だが、T型人材が本当にパフォーマンスを発揮するためには組織との相性が重要だということ。これもデータから分かってきたと塚本氏は指摘する。

塚本 スキルマッチとカルチャーマッチという軸があると思っています。よく話題になるのは縦軸のスキルマッチです。スキルが高ければ活躍する、T型人材いいよねということなんですが、実は横軸として「組織と合うか」どうかを検証する必要がある。当然、その両方が伴う人は活躍します。じゃあスキルはすごく高いけどカルチャーと合っていない人は活躍しているんですかということです。逆に、スキルは高くないけれどカルチャーがすごく合っている人はどうか。どちらが活躍しているかをお聞きすると、実はほとんどが後者です。実際データで分析すると、カルチャーにマッチしているかどうかの方が入社後に活躍しているかどうかへの影響が大きいという結果が出ています。

 弊社としても、まず事実を押さえにいくということをお勧めしていますね。こうなりたいではなく、今、活躍している人は誰だ、と。まずはそこから取り組んでほしいと思います。

 ここで見てきたように、人事の分野でもデータ分析で可能になることは多いが、ピープルアナリティクスには大量のデータを元にした分析が必要だ。中小規模の企業が自社で取り組むにはちょっとハードルが高い。そもそも、人事の検証の難しさはデータ数が圧倒的に少ないことに起因するわけで、そういう意味でも、AIをベースに提供されるこうしたサービスが期待されるところだ。

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