2021年6月3日、米コロラド州デンバーを拠点とするスタートアップ企業ブーム・スーパーソニック社はユナイテッド航空と、超音速旅客機「オーバーチュア」15機と追加オプション35機の購入契約を締結したと発表した。
(参考動画)United goes supersonic | Boom Supersonic
「オーバーチュア」は全席ビジネスクラスの1列シートで、最大88名の乗客を乗せて、高度6万フィート(約1万8000m)をマッハ1.7で飛行する。航続距離は7870kmでニューヨークとロンドンは3時間半、サンフランシスコと東京(注2)は6時間以内で結ばれる。ちなみにオーバーチュア1機の値段は2億ドル(約220億円)。ユナイテッド航空の15機分のプライスはざっと総額30億ドル(約3300億円)という計算になる。
(注2)ただし、サンフランシスコ・東京間を無給油で飛ぶためには航続距離をさらに伸ばす必要がある。
超音速旅客機といえば、2003年まで航行していた英仏共同開発のコンコルドや旧ソ連のTu-114(1978年に運行中止)を思い浮かべる方が多いと思う。現在、超音速旅客機が世界の空を飛んでいないのは、ソニックブーム(超音速飛行する時に発生する衝撃波)や製造・開発コストや燃費などの事業採算性の問題、超高空を飛行することによるオゾン層の破壊などネガティブな課題を克服できなかったからだ。
現在、ブーム社ではオーバーチュアの商業フライトに向けて「XB-1」という3分の1スケールの実証機でテストを繰り返している。ソニックブームの課題に関しては風洞実験や飛行実験によって得られたデータをもとに解決に向けての道筋をつけているようだ。
また、最初の大口顧客がユナイテッド航空であることは、オーバーチュアに大きな試練を与えることになる。ユナイテッド航空が求める安全面での厳しい基準や、「2050年までに温室効果ガスの排出量を100%削減し、100%グリーンな企業になる」というサステナビリティに対する取り組みをクリアする必要が出てくるからだ。オーバーチュアはSAF(Sustainable aviation fuel)というバイオ燃料を使用することでこの課題を解決しようとしているが、世界中でバイオ燃料の利用が可能な空港は限られるため、今後インフラの拡充が前提条件となる。
オーバーチュアの実機は2025年にお目見えし、2026年の初フライトを目指している。
日本でも進むか?超音速旅客機の開発
いずれにしてもコロナ禍のこのタイミングで超音速旅客機の構想が具体化したのは、航空業界の近未来予測として、富裕層やグローバル企業の経営層などの間に、高いコストを負担してでも海を跨いだリアルでエモーショナルな体験に価値を感じる利用者が一定以上存在するという強気の見解が支持されているからだろう。