新幹線のぞみの下り、京都駅に近づく車内の風景。乗車率は2割にも満たない(2021年9月上旬。著者撮影)

(朝岡 崇史:ディライトデザイン代表取締役、法政大学大学院客員教授)

 9月に入ってから、久しぶりに新幹線のぞみに乗って東京・新大阪間を2往復した。

 定例会や講演など、オンライン会議システムで代替できる通常のミーティングなら、あえてコロナ禍の今、時間とコストをかけてまで長距離移動をする必要はないかもしれない。しかし、ビジネスの相手との熱量の交換や信頼感の醸成を必要とする、年に何回あるかないかの最重要ミーティング(エモーショナルミーティング)の場合はどうか。万全の感染防止対策をした上で、やはり、どうしてもリアルで、対面で、ということになるだろう。

 来年(2022年)の年初に米ラスベガスで開催される「CES 2022」(民生技術の世界的イベント)が感染対策を万全にした上で2年ぶりにリアルでの開催(注1)を決定したのも、主催者のCTA(全米民生技術協会)がバーチャルでは充足できない、リアル体験ならではのエモーショナルな価値を認めたからに他ならない。

(注1)CES2022への参加にはワクチン接種証明書の提示が必要なほか、会場でのマスクの着用が求められることが、主催者CTAからすでに発表されている。なお昨年同様、バーチャル開催も並行して行われる。

 新幹線のぞみの乗車率は往路も復路も最大でも2割程度。ひっそりとした車内は旅の高揚感などとは無縁の空間で(しかも新型感染防止の観点から車内や駅の構内ではアルコール類の販売は禁止されている)、東京・新大阪間の2時間半がいつにも増して退屈で長い時間に感じられた。

 著者自身のそんな体験もあり、今回は相手とのエモーションの交換が不可欠になる特別な場面において「テクノロジーで距離の壁を越える」ために両極端の2つのアプローチを紹介したい。

 バーチャルの代表が米グーグルの「プロジェクト・スターライン(Project Starline)」であるとすると、米のスタートアップ、ブーム・スーパーソニック社(Boom Supersonic)が開発を進めている超音速旅客機「オーバーチュア(Overture)」はリアルの代表ということになる。早速、見ていこう。