実践ストーリーはどのように描くとよいか

 では、実践ストーリーを描くためにはどうしたらよいか。描くための枠組みを下図に示す。
 横軸は「成長促進」と「働きがい向上」の視点からの軸である。成長促進は経済的利益の獲得を、働きがい向上は非経済的な成果の獲得として位置付けている。

 縦軸は「個人」と「チーム(集団)」の視点からの軸である。個人は経営層、次世代幹部、マネジメント、現場第一線メンバーなど、役割・期待に応じた人的資本の充実を目指し、チームは組織内のチームおよび組織内外のプロジェクトチームのような集団の人的資本の充実を目指していく。

 図の4つの象限を実践ストーリーを検討する際のキャンバスと見立ててもらいたい。自組織の経営戦略と人材戦略の連動を意図した人的資本の充実を重点施策として位置付ける。下記の象限で、重点となる実践項目と実践ストーリーを描くとよい。

第1象限:個人×働きがい向上=従業員・パートナーのエンゲージメント(貢献意欲)向上
第2象限:個人×成長促進=従業員・パートナーのエンパワーメント(効力感)向上
第3象限:チーム×成長促進=組織内・外チームのエンパワーメント(効力感)向上
第4象限:個人×働きがい向上=組織内・外チームのエンゲージメント(貢献意欲)向上

 実践ストーリーを描く際は、経営者自身が期待を持てる、実現した姿にワクワクする、試してみたいと思える内容にこだわる必要がある。従業員の中には、過去の経験から経営の提示する方向性と実践との乖離を感じている。

 特に人的資本の充実の実践に関してそう感じている人もいるかもしれない。そうであれば経営者自身には、人的資本の充実に関して、過去を振り返り、現在を直視し、将来への目指す状態、期待を語ること、何よりも適応を要する課題の解決を体現することが求められるのである。