経営者自らが各論の実践を先導すべき
先を見通しにくい組織の将来を考える上で、「組織は人的資本に従う」という視点を持ち、人的資本を起点とした組織づくりの発想が有用である。
人材版伊藤レポートで議論されている、人材戦略に必要な5つの共通要素は以下の通りである。
① 多様な個人が活躍できる人材ポートフォリオの構築
② 知と経験のダイバーシティ&インクルージョンが可能な環境
③ リスキル、学び直しによってギャップを埋めることができる環境
④ 従業員エンゲージメント
⑤ 時間と場所にとらわれない働き方
上記を実現する方策を検討する際に、人的資本という視点で現実を直視することから始めてほしい。
・目指している状態から見て、自組織における現在の人的資本の充実度合いはどうなのか?
・充実している人的資本は今後、さらに経営に貢献するのか?
・そもそも充実させたい自組織の人的資本を理解されているのだろうか?
など、自組織は人的資本の何をどう充実させたいのかという問いを経営者が持つことが重要である。
経営者は自組織の人的資本について、
① 私は何を知っているか
② 私は何を知らないか
③ 私は何を知らなければならないか
を再度整理する必要がある。
例えば、組織内のメンバー、共同で事業を展開しているパートナーについて整理してみる。さらに外部の有識者などを活用して経営者自らリスキリング(reskilling)する。こうした行為は人的資本の充実をさらに促進させるはずだ。
経営としての重要な役割は、人的資本は心底大切な経営資本であることを組織内・外に発信し、自組織の価値を正当に評価される状況をつくることである。
日本企業の持続的な価値向上に人的資本の充実は不可欠である。人的資本の充実では総論賛成にとどめずに、各論の実践を経営自らが先導すべきだ。企業価値をさらに高めるチャンスを逃さないためにも、迷わず踏み出してもらいたい。
コンサルタント 笠井洋(かさい ひろし)
ラーニングコンサルティング事業ユニット
組織開発ソリューションセンター長 シニア・コンサルタント
経営戦略策定実践、新事業開発創出等の事業変革コンサルティング後、人材開発・組織開発コンサルティング20年の実践から必要性を見出したエンパワーメント理論をもとに開発した組織の変革促進手法であるチェンジマネジメントなどを活用して企業・団体の組織変革に向けた「人的資本の充実」の実践を促進する人材・組織開発支援を実践している。
・全日本能率連盟認定 マスター・マネジメント・コンサルタント
・米国コーチング協会認定 CPCC(コーチングのプロ資格)等 多数取得