DX後の世界は「言い訳ができない」世界

 最後に「DXを進めることで、何がどのように変化したか」を尋ねた。

 山口氏は「DXにより、私の中で理解できなかったことが、全て数値に落とし込めるようになった。例えば、あるところに飲食店がオープンしたとする。売れない、何したらいいか分からない。しかし、私たちにはなぜ売れないかが全部、分かります」――こう前置きして次のように語った。

「なぜ、そんなことができるのか。それは、何人のお客さまがあなたの店を見ているか、何人がクリックをして、何人が商品かごに料理を入れ、何人がオーダーをして、食べてくれた人の何人がリピーターとなっているのか、といったことの全部が分かるから。そうすると、どこがよくないのかが分かる。料理のリピーターが少ないのは、味か体験に問題があり、そこで『二度と注文しない』と感じさせてしまったから。クリックされないという場合は、そもそも見せ方が良くなかったということ。クレームの発生からその解決の仕方も、全てこのような論理で片付けられる」

「これまでは『この人は仕事ができる人か』という点についてもあいまいにししてきましたが、今は全部が数字になって表れてくるのでより判断がしやすい。それはいいことかどうかは別として、DX後の世界は『言い訳ができない世界』です。当社の風土として、成功に向けての全てのKPIを数字に落とし込むことができる。このような数学の世界が当社の文化として育ってきています」

 山口氏によると、このような仕組みを志向するようになった背景の根本には、「巨大資本の企業に負けない仕組みをいち早くつくる」という狙いがあった。「そのためには、原価を下げることに注力する。そのシンプルな方法は大量発注だが、1店舗だけだとそれをさばききれないために、大量のキッチンをつくることで大量に発注して、1個当たりの価格を下げる。ここに私たちのビジネスの価値が存在する」――という発想だ。

 これは、既存のビジネスモデルの弱点を突く新たなビジネスモデルを構築し、そこにデジタルの力を加える。そのDXによって規模の最大化を図り続け、同社に関わる人々が享受するメリットを最大化し続けていく、ということだ。

 クラウドキッチンが隆盛しているのには、コロナ禍がもたらしたニューノーマルの生活スタイルだけでなく、若い事業家たちがその野心を託していることも大きな要因として挙げられるといえるだろう。