リアル店舗開業よりも約5カ月分、コストカット可能

 クラウドキッチンの草分け的存在は株式会社SENTOEN(本社/東京都千代田区、代表/山口大介)が展開する「KitchenBASE」である。その第1弾は2019年6月にオープンした「KitchenBASE中目黒」。東急東横線の中目黒駅から祐天寺方向に線路沿いを徒歩5分、ビル2階の炉端焼店があった物件(20坪)の中に4つのキッチンをつくり、そこで5つの飲食ブランドの調理を行っている。

 第2弾は2020年8月オープンの「KitchenBASE神楽坂」。施設は地下1階、地上4階で元出版社の倉庫であった。そこに21のキッチンをつくった。

 筆者は昨年11月の昼時に同施設を初めて訪れたが、都営地下鉄大江戸線・牛込神楽坂駅から徒歩10分、JR市ヶ谷駅から徒歩15分ほど。市ヶ谷の外堀通りから路地に入ると、小さなオフィスビルやマンションが立ち並び、商店が無くなっていく。そうした中、50mほど先に黒い服装の人たちが乗ったバイクや自転車が集まる光景が見えてきた。それが「KitchenBASE神楽坂」であった。

「KitchenBASE神楽坂」では注文件数が増えてきたために商品の受け渡し場所を広くした

 代表の山口氏が述べる、KitchenBASEの特徴は大きく2つ。

 まず、「誰でも開業できる」。独立してデリバリーレストランを初めて手掛ける人、拡大を目指す人にとってもすぐに開業できる。

 次に、「低リスク」。入居者は開業・退店時のコスト、ドライバーの採用など、デリバリーレストランの開業にまつわるリスクを最低限にとどめることができる。

 入居者の初期投資は保証金などを含めて100万円程度。一般的に飲食の実店舗を構える場合に800万~1000万円かかるところが、10分の1程度で済むという。

 それに対してレンタル料は実店舗を構えるよりも高い。その理由は、まず設備がフルセットであること。この装置はかつて同社が実験としてサンドイッチのデリバリーを行い、また、これまで自社で約10ブランドのゴーストレストランにチャレンジしてきた経験を生かし、さまざまな業種に対応できるキッチンを考え出したものだ。

 また、デリバリーを始めようとデリバリープラットフォームに登録しようとしても長期間待たされることが常だが、KitchenBASEでは独自の経路でスピーディに登録が可能。入居者それぞれの売り上げが伸びるように、デリバリーアプリのページづくり、料理画像のクオリティ、ポーションやプライシングなどについて、顧客のクリック数、オーダー数、リピート数のデータを基にアドバイスも行う。

 飲食店の場合、リアル店舗を構え、デリバリーを始めるまでのスケジュール感はこうなる。物件を決めるまでに約1カ月。その後、内装や設備を決めるまでに約1カ月。営業許可を取得して、そこからデリバリープラットフォーマーに委託できるまで4カ月程度。ざっと6カ月ほどの期間を要する。KitchenBASEではそれを1カ月に短縮することで、リアル店舗を開業した場合と比べて約5カ月分のコストをカットできる。

 山口氏はこう語る。「これまでシェフが独立開業するときには、物件を探し、店のデザインを考え、メニュー構成やプライシングも決めて、さらにプロモーションを行うという具合に、一人の人物がマルチな能力を持つことが必要でした。そうではなく、シェフが独立開業するまでのことを私たちと一緒にやっていただくのであれば、フランチャイズチェーンや大手外食に勝てるように頑張っていきたい。そのために、データを駆使して事業を行っています」