さて、デザインマネジメントは名前の通り「マネジメント=経営・管理」なので企業の意思決定者が登場する話ではあるが、ビジネスパーソン一人一人でもデザインを意識するためには何ができるのだろうか? イベントの最後にデザインおよびデザインマネジメントの威力を信じている登壇者一人一人に伺った。明日から使える良いティップスが含まれているので最後まで読んでいただきたい。

河合:「まず、複雑になったものを基本に立ち戻ってシンプルにするということが大事だと思います。本日のインプットトークでもデザイナーである田子さん、柴田さんのプレゼンは言葉少なめで要点がしっかり伝わってくる。見た目のカッコいい、悪いではなく、『これは何と表すのか?』と考えて一言で語れるぐらいまで要点を集約し、伝えることもデザインの訓練として必要だと考えております。

 そして、もう一つは自己否定を恐れない、です。これまでの成功体験を否定するのは難しいですが、それから脱却するために『カニバる(カニバリゼーションを引き起こす)』ことを恐れないことも大事なんだと思うのです。『そもそも自分たちがやってきたことを壊してしまうかもしれない、カニバる領域かもしれない』と恐れて挑戦しないよりは、カニバってでも新たな挑戦をする、この自己否定を恐れないということを評価の軸にしてみるのも一つの手かな、と思ってます。

 シンプルと自己否定を基本ルールにしていくといろんなものが変わっていくのではないかと考えております」

柴田:「デザイナーの大切な資質の一つにデッサンがあるのですが、デッサンはずーっと細かく局部を見る以外に一歩離れて客観的に絵を見てみる訓練もしています。デザイナーは無意識のうちに多面的な視点で物事を捉えるトレーニングをしています。このような多面的な視点を持つというのも新たな物事を生み出すときに大事になるものではないでしょうか?」

田子:「辞書で『デザイン』と引くと15年ほど前までは『意匠』と出ていましたが、現在では本来の言葉の意味に戻ってきており、『計画』と出てきます。アジア圏ではもともとデザイン=計画でしたし、英語ではCreative Planning(創造的計画)と出てきます。私が企業の経営者層の方にデザインインストールする際にはまずは『デザイン』の意味の誤解を解くところから始めます。

 また、日本ならではのデザインマネジメントのやり方として『検知・創造・破壊・一貫』というのも提唱しているのですが、まずクリティカルに直さなければいけないところを検知し、破壊をする必要があることを皆さまにお伝えしたいです。破壊は徹底的に壊さなければいけないので難しいから誰も手をつけていないのですが、徹底的に破壊すればその後のクリエイティブが飛躍するのです。

 今はとてもタイミングが良いです。企業が次の一手を迷っているタイミングをチャンスだと捉えていただきたいです」

藤森:「課題設定力を鍛えるのが大事だと考えています。日本の企業は暗黙のルールに縛られていて、理由を深掘りしないんですよね。例えば『それは創業当初から続いていることです』という言葉でなぜか納得してしまう。私は外資にいるので外国の方と仕事をすることが多いのですが、外国の方であれば『創業当初から続いているのは分かった。であれば、なぜそうなったのか?』と、問題の本質を深掘りすることを諦めないんですよね。その本質に迫らない限り、デザインに踏み込めないと思うのです。なので、課題設定能力を高めるのがとても大事だと考えております」

 私たちが活性化された産業を生み出すためには、複雑になってしまったものをシンプルに捉え直し、そして多様性を意識し、破壊や自己否定を恐れずに本質に迫る、ということが求められそうである。恐怖を感じることかもしれないが、自分一人だけではなく、みんなが同じ状況の今だからこそ勇気をもって踏み込んでみるのが大事だと考える。

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 IBMのデザイナーである山田龍平氏が描いてくれたグラフィックレコーディングでも座談会の様子がつかめる。このようなシンプル&要点をつかむ能力の高いデザイナーがあらゆる企業の経営層の方々と当たり前に仕事をする日本産業が出来上がることを望まない人はいないだろう。