ニューノーマル時代のファンエンゲージメント
IBM Future Design Lab.とHEART CATCH Inc.が組む、鬼が笑うほどの未来を創造する座談会「オニワラ」。テクノロジーだけではなく社会全体の未来を作ることをミッションにしているIBM Future Design Lab.が、いま、企業に求められる姿勢を掘り下げていく座談会の2回目に選んだテーマは「ファンエンゲージメント」だ。スペシャルゲストは伝説の番組『進め!電波少年』の名プロデューサー日本テレビの土屋敏男氏と、ハードウェアメーカーとしてニッチ&グローバルなファン&顧客開拓をしているShiftallの岩佐琢磨氏。

登壇者の一人、日本IBMの戦略コンサルティング&デザイン 執行役員の藤森慶太氏が座談会の最後に発言した以下のコメントにこれからの未来のヒントが隠れている。
「大企業こそがコアなファンとのエンゲージメントを大切にすべき時代である。デジタル化が進むと否が応でもインタラクティブな顧客との会話が必要になる。デジタル戦略を悠長に考えてから動くよりは、スピード感をもってインタラクティブな動きができるのかが、大企業にとっても重要である。顧客の声をダイレクトに拾っていく仕組みも大事である」
さて、藤森氏のこのコメントはどのような会話から導き出されたのか? 土屋敏男氏の「“ほうれんそう(報告・連絡・相談)の廃止”、“殺しのライセンス”を有するものを組織に入れる必要性」、岩佐琢磨氏の「ジョブローテーション型ではなく、熱量を持ったオタク型企業内担当者の必要性」などというキーワードも出てきている。「オニワラ」な視点がたくさん生み出された当座談会を振り返っていく。
*フルバージョンを動画で見たい方はこちらのアーカイブにアクセスください
https://youtu.be/3yqoPyitzTc
そもそもなぜ大企業にとって「ファンエンゲージメント」が必要なのか?
2020年秋に、日本IBMとして初となる生活者のDX(デジタルトランスフォーメーション)許容度を測る調査を行ったのだが、その中で生活者の半数近く(43.1%)はデジタルサービスの高度化を許容していることがわかった。また、色々なサービスが高度化し続ける、いまの世の中の流れを積極的に受け入れると回答している。生活者DX調査を指揮したIBM戦略コンサルティング&デザインアソシエイトパートナーの髙荷力氏は、「エンゲージメント商圏の拡大」と称してこの生活者変化を、新たな市場形成のヒントととらえている。
エンゲージメント商圏では深い絆を感じられるところとつながる傾向が予想され、その際にファンエンゲージメントが大事になるというのである。ここでいうファンとは、顧客だけではなく、見込み顧客、ビジネスパートナーも含む。
また、同戦略コンサルティング&デザイン トータルメディアプロデューサーの岸本拓磨氏はIBMの技術により、性格分析が精緻に行えるようになりベストマッチングパートナーの提案も可能になってきたことを紹介する。ここで言うマッチングは恋愛のマッチングではない。企業のイノベーションを加速させる人材同士のマッチングである。ファンエンゲージメントの活動で多くのファン(顧客・見込み顧客・ビジネスパートナー)を集め、そのファン層を精緻に分析すると新たなイノベーションの可能性も生み出せることが見え始めている。だからこそ「ファンエンゲージメント」を考えていく必要があるのだ。
「送信者⇄受信者」ではない。企業もクリエイターもファンも同じベクトルで未来を見るのだ。
土屋氏は日本テレビに在籍しつつ、WOWOWで放送中の『電波少年W』を手掛けている。1992年に生み出された伝説の番組『電波少年』をコミュニティベースで再構築する挑戦を他局WOWOWで実行中なのだ。企業を跨いだ活動や、土屋氏のものづくりの視点、時代の変化がとても興味深い。
日本テレビ放送網株式会社 R&Dラボ シニアクリエイター 土屋敏男氏:1979年3月一橋大学社会学部卒。同年4月日本テレビ放送網入社。「元気が出るテレビ」「ウッチャンナンチャンのウリナリ!」などバラエティ番組を演出。「電波少年」シリーズではTプロデューサー・T部長として出演し話題になる。
「いままでテレビは“1対多”のマスメディアでした。コミュニティは“多対多”。その組み合わせで生み出すと今までにないものができるのではないか?と直感で感じ、作り出したのがWOWOWで放送している『電波少年W』です」(土屋氏)
『電波少年W』はコミュニティメンバーの見たい・知りたいを投票することにより、その意見を元に番組を構成している。ただ、一カ月運営してみて土屋氏は「なんかちがうなぁ」と思い始めているという。
「ユーザーが見たいものを要求し、それを番組として供給させる仕組みを作っていたのですが、コミュニティを運営してみると要求⇄供給という関係ではなく、“一緒に作り上げる”仲間という関係性が良いのではないかとみえてきて、舵を取り直しています。現在では「電波少年ベストセレクション」というオンライン有料イベントを考えみんなで作り上げていくことを目標に動き出しています」(土屋氏)
開始一カ月弱で登録コミュニティメンバーが4000人もいるという。ユーザー登録し能動的に動くファンが4000人強存在する中で、試行錯誤を繰り返し仕掛け続けている真っ最中の土屋氏のコメントから、ファンエンゲージメントを構築するヒントは、仕掛ける側が挑戦し続け、その姿を表に晒すのも大事なのではないかと考える。挑戦し続ける熱量に、人は魅了されるのだから。
忘れてはいけないのは土屋氏が、日本テレビという大きな組織に存在しながら挑戦を続けていることだ。土屋氏は、大企業組織のなかで映画『007』で出てくる“殺しのライセンス”のような、特別に許可された存在を作る必要性も述べる。
「私は、“ほうれんそう(報告・連絡・相談)”撲滅運動というのを掲げてまして。ピラミッド型組織の弊害なのですが、上に報告をあげていくどこかで「やめておいた方がいいんじゃないか」という弱気な発言が出てきて、そこで企画がストップしてしまう。せっかくの面白い熱量もある人の弱気な発言で消えてしまう。なので、私は“ほうれんそう”をやらずに作り続けた。もちろん失敗も多くあるけどその分、いままでにない番組というものが作ることができた。
組織のメンバーのうち数人に“殺しのライセンス”を渡す必要もあると思うんです。こいつは何やっても許される、というような。
幸いにして日テレがそのような“殺しのライセンス”を有する人間を許容してくれる組織だったので、『電波少年』みたいな番組が生まれて来たんです」
一人の天才のアイディアだけではなく、そのアイディアを生かすための“殺しのライセンス”を許容する組織そのものも注目である。
ジョブローテーション型から熱量あるオタク型へ
株式会社Shiftall 代表取締役CEO 岩佐琢磨氏:2003年からPanasonicにてネット接続型家電の商品企画に従事。2008年に株式会社Cerevoを起業、30種を超える自社開発IoT製品を世界70の国と地域に届けた。2018年4月、新たに株式会社Shiftallを設立し、代表取締役CEOに就任。
「土屋さんが直感的な閃きで動ける天才クリエイタータイプだとすると、私は違います。私は懲りずにプロダクトを生み出し続けることによりファンエンゲージメントを高めていくタイプですね」(岩佐氏)
日本のIoTスタートアップの先駆者として岩佐琢磨の名前を挙げて異論を唱える人は少ないだろう。Cerevoから現在のShiftallを含めて30種以上のIoT製品を70カ国で販売した実績を持つ「ニッチ&グローバル」を攻める岩佐氏が考えるファンエンゲージメントは、デジタルサービスの初期段階に生まれるコミュニティの熱量をハードウェアも含めて作り上げる手腕にある。
例えば、Cerevo時代にはライブストリーミングサービスが市場拡大するタイミングで『LiveShell』というUstream対応ハードウェア製品を作った。これはいまでも世界中で愛用者がいるという。また、アニメ『PSYCHO-PASS(サイコパス)』に出てくる銃を再現した『DOMINATOR』は10万円を超える高価な玩具でありながら世界中で販売されたと同時に、その後の大人向け高額玩具市場のキッカケも作っている。
オニワライベント直後にリリースされたShiftallのVRメタバース向けSteamVR用フルトラッキング・システムの『HaritoraX』の開発発表も、これから拡大する市場に向けてファンが欲しい!と思うプロダクトを投入しており、イノベーターやアーリーアダプター向けファンエンゲージメントが秀逸である。
さて、パナソニックグループの一員でもある岩佐氏に、大企業のファンエンゲージメントで大切なものを聞いてみた。
「大事なのは、大企業であっても社員個人の熱量を大切にすることではないでしょうか? 例えば東芝のDVDレコーダーを作った片岡秀夫さん。片岡さんはアニメオタクと言っても良いほどアニメを知り尽くしてらっしゃる。そんな彼が作ったDVDレコーダーはアニメファン向けに嬉しい機能が多数ある。なのでアニメファンは東芝のDVDレコーダーを愛しているのです。大企業ではジョブローテーション型の人事制度を採用し、数年で違う事業部に転移させるような流れもありますが、それでは熱狂的なファンは生まれません。熱量持った社員に、深くプロダクトと関われるようなポジションを提供し続けるのが、ファンエンゲージメントにとっては大事なのではないでしょうか」(岩佐氏)
土屋氏にも日テレでの「ニッチ&グローバル」での成功事例がある。成功のヒントはやはり熱量にありそうだ。
「岩佐さんの話を伺っていて思いだしたのが『¥マネーの虎』の企画者の顔なのです。簡単に『¥マネーの虎』の番組紹介をすると、ベンチャー社長に事業企画をプレゼンさせるものです。今みたいにスタートアップなどのプレゼン大会が頻繁ではない2000年初頭の企画だったのでその当時ではテレビでも他の業界でもあまり馴染みのない番組企画だったんですが、その企画者の目の色、熱量が凄かったんです。なので、こいつを信じてやってみよう!と企画を進め、深夜番組から進めてゴールデンにも進出しました。番組自体は日本では終了しましたが今でも番組フォーマットは世界100カ国以上で使われており、ライセンスフィーが毎年日テレに入ってきています。スーパーニッチでも横展開すると大規模なものになる。岩佐さんの「ニッチ&グローバル」の流れにも近しいものがあると思うのですが、その企画を生かすヒントは企画者の熱量、目の色を見るということも大事ですよね」(土屋氏)
鬼が笑うほどの未来を感じるオニワラポイントはどこか?
日本IBM執行役員 藤森氏は土屋氏と岩佐氏の発言を聞き、これからの時代のファンエンゲージメントにおけるオニワラポイント=鬼が笑うほどの未来を感じるポイントをどのように捉えたのだろうか?
日本IBM株式会社 グローバル・ビジネス・サービス事業 戦略コンサルティング&デザイン 執行役員 シニアパートナー 藤森慶太氏:企業における経営管理、ファイナンス戦略、事業戦略、モバイル・デジタル戦略の策定から実装まで、幅広い経験を持つ。米IBM本社ファイナンスにおいてグローバル事業計画策定を経験。国内ではファイナンス・ストラテジー・リーダー、通信・メディア・公益サービス事業部長、モバイル事業部長、インタラクティブ・エクスペリエンス事業部長を経て、現職。
「テレビ番組もハードウェアプロダクトも全てがサービス化し、インタラクティブになってきている。かつてのように番組放映後に視聴率を知る、プロダクトリリース後のアンケートでユーザーの声を聞くのではなく、プロダクトやサービスを提供したら、その日からユーザーのコメントが大量に来る時代になりました。そのようなユーザーからのフィードバックを恐れてガッチガチの体制やルールを固めて後手に回っていたら、そのユーザーの熱量を逃してしまう。3,000件苦情がきたら、3,000件の改善のオポチュニティ(機会)を得たとポジティブな意識で進めていくべきです。
さて、大企業だとなぜ、いままでファンエンゲージメントができなかったのでしょうか?それは新規挑戦へのROIをマネタイズに寄せすぎていたことも大きいでしょう。
大企業ではなかなか迅速に対応しきれない、スーパーニッチだけど熱量あるドメインをShiftallでスピーディーに攻めにいくような“熱を逃さない”パナソニックさんの動きも参考になります。
何よりも大事なのは、いままでのマス/大衆という群像を考えるのではなく、一人ひとりの“個客”に向き合う姿勢が必要です。なにせ『プロぼっち(一人ぼっちのプロ)』という言葉も存在するくらい、一人で楽しみ、自己完結できれば良いと思っている人たちも増えてきていますので。そのような『プロぼっち』市場を狙うのには、壮大なロジックはいらないですよね。担当者やファンの熱量を大事にすることが鍵となることを本日改めて認識しました」(藤森氏)
IBMのテクノロジーを使うといままで掴めなかった個々人の発言も自然言語解析し、その人の性格や熱量なども把握することができるので、今回のオニワラで語られていたような「熱量を大切にする」こともデータとして捉えられるようになることも期待したい。
最後に、土屋さんの言葉で当原稿は締めたいと思う。
「コミュニティと作り上げるテレビ番組が面白いのではないか、と直感で感じ今年からWOWOWさんで『電波少年W』を作っていますが、正直成功するかどうかわかりません。海の波止場に立ち、どこにたどり着くか行先もみえないけど、とりあえず飛び込んじゃえ!という感覚で作っています。泳いでいるうちに、氷のかけらにでも出会えれば、そこにとにかく掴まってみる、というような。正直不安で不安でしょうがなく、いまでも夜中にハッと目が覚めることもあるのです」
世の中にインパクトを起こす方は、常に自らに挑戦をしていることを表している発言と考える。そのような挑戦の姿勢があるから熱狂的なファンと時空を超えて繋がっていけるのだろう。
<次回オニワラ告知>
3月18日(木) 19:00-20:30
『専有と共有のバランス ~分け合う、支え合う心の未来』
〜西村真里子のオニワラ!「鬼と笑おう」〜未来をつくる座談会
powered by IBM Future Design Lab. #3
https://eventregist.com/e/oniwara_3






