ジョブローテーション型から熱量あるオタク型へ
「土屋さんが直感的な閃きで動ける天才クリエイタータイプだとすると、私は違います。私は懲りずにプロダクトを生み出し続けることによりファンエンゲージメントを高めていくタイプですね」(岩佐氏)
日本のIoTスタートアップの先駆者として岩佐琢磨の名前を挙げて異論を唱える人は少ないだろう。Cerevoから現在のShiftallを含めて30種以上のIoT製品を70カ国で販売した実績を持つ「ニッチ&グローバル」を攻める岩佐氏が考えるファンエンゲージメントは、デジタルサービスの初期段階に生まれるコミュニティの熱量をハードウェアも含めて作り上げる手腕にある。
例えば、Cerevo時代にはライブストリーミングサービスが市場拡大するタイミングで『LiveShell』というUstream対応ハードウェア製品を作った。これはいまでも世界中で愛用者がいるという。また、アニメ『PSYCHO-PASS(サイコパス)』に出てくる銃を再現した『DOMINATOR』は10万円を超える高価な玩具でありながら世界中で販売されたと同時に、その後の大人向け高額玩具市場のキッカケも作っている。
オニワライベント直後にリリースされたShiftallのVRメタバース向けSteamVR用フルトラッキング・システムの『HaritoraX』の開発発表も、これから拡大する市場に向けてファンが欲しい!と思うプロダクトを投入しており、イノベーターやアーリーアダプター向けファンエンゲージメントが秀逸である。
さて、パナソニックグループの一員でもある岩佐氏に、大企業のファンエンゲージメントで大切なものを聞いてみた。
「大事なのは、大企業であっても社員個人の熱量を大切にすることではないでしょうか? 例えば東芝のDVDレコーダーを作った片岡秀夫さん。片岡さんはアニメオタクと言っても良いほどアニメを知り尽くしてらっしゃる。そんな彼が作ったDVDレコーダーはアニメファン向けに嬉しい機能が多数ある。なのでアニメファンは東芝のDVDレコーダーを愛しているのです。大企業ではジョブローテーション型の人事制度を採用し、数年で違う事業部に転移させるような流れもありますが、それでは熱狂的なファンは生まれません。熱量持った社員に、深くプロダクトと関われるようなポジションを提供し続けるのが、ファンエンゲージメントにとっては大事なのではないでしょうか」(岩佐氏)
土屋氏にも日テレでの「ニッチ&グローバル」での成功事例がある。成功のヒントはやはり熱量にありそうだ。
「岩佐さんの話を伺っていて思いだしたのが『¥マネーの虎』の企画者の顔なのです。簡単に『¥マネーの虎』の番組紹介をすると、ベンチャー社長に事業企画をプレゼンさせるものです。今みたいにスタートアップなどのプレゼン大会が頻繁ではない2000年初頭の企画だったのでその当時ではテレビでも他の業界でもあまり馴染みのない番組企画だったんですが、その企画者の目の色、熱量が凄かったんです。なので、こいつを信じてやってみよう!と企画を進め、深夜番組から進めてゴールデンにも進出しました。番組自体は日本では終了しましたが今でも番組フォーマットは世界100カ国以上で使われており、ライセンスフィーが毎年日テレに入ってきています。スーパーニッチでも横展開すると大規模なものになる。岩佐さんの「ニッチ&グローバル」の流れにも近しいものがあると思うのですが、その企画を生かすヒントは企画者の熱量、目の色を見るということも大事ですよね」(土屋氏)