さて、経営におけるデザインの必要性、海外と比較して日本の状況はどうなのか?

 エムテドの田子氏はドイツ、台湾を例に歴史的&国策としての日本のデザインマネジメントの遅れを指摘する。

田子:「ドイツでは第一次大戦後に近代産業の礎となるバウハウスが誕生します。第二次世界大戦前に廃れてしまったので、たった14年間のものだったのですが、職人をリスペクトし、価値を高めるためのデザインの意義を大きく打ち立てたバウハウスのインパクトは現在でもドイツ国民の意識に刻まれています。また、企業価値を高めるものとして国策としてもデザインを取り入れています。

 翻って日本は第二次世界大戦後に文化背景がなくとも、良くも悪くも大きく産業成長してしまったので、『デザインマネジメント』の産業における重要性がなかなか理解されていません。

 1957年にグッドデザイン賞が制定され、模倣は価値を生まないのでオリジナルを生み出そうという流れができ始めたのですが、1970年代から高度成長していく上でデザインを意識しなくても売れる(特に半導体)という時代が続き、国家戦略としてのデザインがなくなっていったのです。

 デザインは、国としてはケアしないけど、企業に任せるというスタンスでしばらく続いていたのですが、徐々に企業の成長が陰り、AppleやAmazonのような企業が日本から生み出せない理由は何か?と立ち止まり考えたときに、『デザイン思考』や『デザインの価値』というのが叫ばれるようになり、2018年に経産省・特許庁から<『デザイン経営』宣言>というレポートが出る流れとなっていきます。私からすると、やっと日本もデザインに力を入れ始めてくれた、という印象です」

田子:「台湾もすごいのです。現在では世界のPC工場といわれていますが、彼らは徹底的に日本の研究をしているのです。ホンダやソニーというマーケット無きところにマーケットを作っていく創業当時の大変キテレツなことをやっている企業を研究しつつ、受注生産だけやっているとOEM企業になってしまうことを危惧し、注力し始めたのがデザインなのです。

 日本においては1950年にグッドデザイン賞が設立され、「知財=資産」としてデザインを国が位置付けていますので、デザインを戦略的なものと位置付けてこなかったとはいえません。むしろ、アジアにおいては先駆者です。2003年に『戦略的デザイン活用研究会』の報告書が政府に存在していますが、それから15年後の<『デザイン経営』宣言>報告書の発表までは空白の時間があり、その間に諸外国と大きな差が生まれてしまったということです。

 なお、台湾でデザインセンターが設立されたのは2004年です。国としてデザインを戦略として位置付けているのは近年のことです」

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 動きの速い現代においてアジャイルに動けるかどうかもデザインの威力を発揮するポイントとなりそうである。日本IBMがSMBCとともにグッドデザイン賞を受賞したSMBCアプリについて、河合氏が金融アプリでグッドデザイン賞を受賞したことを称賛し、「何がアハモーメント(成功の決め手)だったのか」とIBM柴田氏・藤森氏に聞いたところ、「多様性」および「アジャイル開発」というキーワードが出てきた。

柴田:「まずはSMBCという企業そのものがデザインの重要性を認識し、既にデザインに対して投資をされていたのが素晴らしい結果を導いていると考えております。また、SMBC内にもデザインチームがいらっしゃるので、IBMデザインチームとともにワンチームで多様性をもって活動できたのが良かったのではないかと考えております」

藤森:「私自身はさまざまな銀行様とお付き合いがあり、違いがクリアに見えています。それはアジャイル開発に踏み出せたかどうか、というところです。

 App Storeの評価を上げていくことに価値を見いだし、アジャイルに作れる体制を作られた、というところが大きいです。従来通りの『1年かけて要件定義をし、その後、開発、リリース後は保守のみ』という体制、および予算組みではなかなかアジャイル開発に踏み込めないのです。『App Storeの評価を上げたら売り上げはいくら上がるのか?』という既存のROIベースの指標だけでみていたらとても踏み込めない領域なのです」

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