紙の商業手形がもたらしたメリット

 近代日本経済において手形の利用が拡大したのは、手形が、紙技術に基づくいくつかのメリットをもたらすものだったからです。

 まず、代金を「後払い」にできます。仕入れなどの代金を今ではなく数カ月後に払うことを可能とする約束手形は、実質的には企業間で与信、すなわち、お金の貸し借りをしていることになります。とりわけ経済が高成長し資金需要が旺盛な中では、このような「企業間信用」は重要なファイナンス手段となります。もしも手形がなければ、企業は仕入れ代金を直ちに払わなければならず、その分のお金をどこからか借りてこなければなりません。

 また、手形を受け取った側は、これを資金調達に使えます。もちろん、代金を現金などですぐ支払ってくれればそれに越したことはないのですが、代わりに手形を受領した場合には、「手形割引」などの比較的簡便な方法で、これから受け取るはずの支払代金(売掛金債権)を現金化できます。これは、手形が紙の形態をとり、法的にも「有価証券」とされたことで可能となりました。

 さらに、手形が「受取人起動」の仕組みを可能にしたことも挙げられます。手形という紙を「呈示」して支払いを受けるということは、お金を受け取る側が、受け取るために必要な情報をしっかり管理するインセンティブに結び付きます。「払い忘れ」はあっても、自分の利害に関わる「受け取り忘れ」は、滅多にないはずです。

 加えて、「裏書」という仕組みにより、手形が転々流通する場合でも、自分に至るまでに所持人がきちんと連続していることを、紙の上で確認できます。

手形の減少

 近年、日本でも、約束手形の利用は減少傾向を辿っています。現在の約束手形の交換高は、ピーク時(1990年)の約3%にまで縮小しています。

手形交換高

 この中で経済産業省は本年2月、2026年をめどに約束手形の利用を止めるよう産業界に求めていく方針を明らかにしています。これには、紙のハンドリングに伴うコストの低減やデジタル化の推進という意図もありますが、支払い側が「後払い」に使える手形を無くすことで、受け取り側がより早く資金を手にできるようにしようという問題意識もあります。