最新IT導入は“魔法のつえ”にあらず

 同社のDXのスタート当時の合言葉は「新たな領域に踏み出すそう」だった。

 山田氏らは「2016-2018 IT中期計画」を策定し、その中では「次中期の事業を支援していくため、ITとしても新たな技術を適用し、最初は正解が分からないテーマ/領域に取り組んでいく必要がある」「そのためには従来型とは別の新たなアプローチも必要である」と明確に宣言された。

 また、その具体的な方策として「①デジタル・キーテクノロジーの把握、社内外パートナーシップ活用」「②ソーシャル、ビジネス、IoT、3つのネットワークをつないだバリューチェーン最適化に向けた企画・推進、情報共有、啓蒙活動(経営・事業部門の合議体をIT視点からファシリテート)」「③デジタル活用の基盤・サービス提供(内部・外部のパートナーシップやサービスを適切に活用)」「④新たなデジタルの仕組みと基幹システムを確実に接続・統合」を掲げ、2016年8月にはIT部門の中にデジタル戦略グループを新設。全社横断のデジタル戦略コミッティも立ち上げ、ボトムアップ型でプロジェクトは始動した。

 このDXプロジェクトはやがて経営陣を巻き込んだトップダウン型へシフトしていくが、その際のキーマンはインテルからヤマハ発動機にやって来た同社唯一のコーポレートフェローの平野浩介氏だった。平野氏のアプローチは以下の考えのもとで進められ、山田氏は「そのかいがあり、当初から経営陣の“目線”をそろえることができた」と言う。

●経営・ビジネスの在り方を十分な時間を使ってディスカッションする(目的意識を合わせる)
●経営課題・戦略に対しデジタル・ITが成し得るインパクトを共有する
●「ITはコスト」から「ITは投資」へ(リターンを説明)
●スタートアップにはない資産を活用

「これに加えてもう一つ重要だった視点は『DXの目的は何か』ということでした。こうしたプロジェクトにおいては、日々さまざまなデジタルテクノロジーが現れ、経営陣・社内ともその期待の大きさから、最新IT導入を『魔法のつえ』のように思い、時として“(一時だけの)バズワード化”しがちです。

 しかし、われわれの目的はIT導入ではなく、あくまで先に来るビジネスの成長であり、経営課題の解決。そして長期ビジョン“ART for Human Possibilities”の実現でした。その後に想定されるビジネス変化を十分に見据えた上で、『今のビジネス』と『新たなビジネス』とを照らし合わせながら、今後求められるITシステムの要件を想定し、成長戦略に向けたデジタル・IT戦略を設計・検討しました」