「事業継続」という視点で可能性を広げる

――優れた技術を持ちながらも、後継者の不在や将来性のなさを理由に廃業を選択する企業が多くあります。企業価値を見出し、存続していくためにはどうすべきか、何かヒントはありますか。

鈴木氏 確かに日本はいま、廃業を選択する企業があまりにも多いのですが、その中には事業承継M&Aで救えたのではないかという会社もあります。いま事業承継が注目されていますが、もう1つ「事業継続」という視点もあります。どうやって継続するか、さらに一歩踏み込んで事業の存続のあり方を模索することです。

 例えば印刷業界の場合、垂直統合の実現は難しいでしょう。商業印刷の分野でデジタル化も含めた設備投資が必要だとしても、その選択を取れるほど財政面に余裕のある企業はそれほど多くはないからです。一方、水平統合は合理化や設備投資の効率化(削減)などを狙う上でも、検討は可能かも知れません。

 印刷業界では、垂直でも水平でもない、業界を超えて統合する「クロスインダストリー」という事例もあります。ある印刷会社が、全く異なる業界の海外企業グループからのM&Aによって、これまでとは異なる需要を生み出したという事例です。印刷という事業内容は変わりませんが、新しい顧客や市場との接点が生まれたことで、その企業は復活を遂げたわけです。

 会社の力量というものは、社長の力量とイコールです。会社の力量が社長の力量を超えることはあまりありませんが、それを可能にする千載一遇のチャンスがM&Aです。

 印刷業界内だけを見ていると、将来は決して明るいとは言えないかもしれません。しかし、少し広い視点で産業全体を見渡してみると、思わぬ道筋が見つかることがあります。アイデア次第ではいくらでも可能性がありますし、既成概念にとらわれずに考えることが大切です。

 当社グループの海外M&Aチームを見ると、事業承継の選択肢として、まずファンドが株式を取得して、それを大企業に売却するというサイクルができています。日本でも、5年後10年後に、広く海外まで含めて提携や事業承継のパートナーとして考えられるようになれば、ひいては日本の国力を上げることに繋がると考えています。