準備なしでの事業承継は悲劇を生む
――決断力が重要で、遅れること、先延ばしにすることはリスクでしかないとのことですが、具体的にどのようなリスクが考えられるのでしょうか。
鈴木氏 私のお客様に、承継できると見込んでいた社内の人材が辞めてしまったため、第三者に売却せざるを得なかった方がいます。その方は、「もう少し早く動いていれば」と悔やまれていました。いくら以心伝心と思っていても、今後労働の流動性がより高まっている中、経営側の思うようにコトが運んでいくことはより少なくなるはずです。このことは避けられないように感じます。
もう一つ、私の事業承継に対する考え方に大きな影響を与えたエピソードがあります。2010年代からお付き合いさせていただいた社長の方で、会社は業界トップ、上場もしていました。売上も数百億円にまで成長して、この先も順調に伸びていくのだろうなと思っていた矢先に、胃がんを患ってしまいました。治りそうもなくて、余命わずかだと言われたとき、私も言葉にならないほどショックでした。
入院しながら、役員会には病室からリモートで参加して指示を出すようなことをされていましたが、それから亡くなるまであっという間だったことを覚えています。まだ60代で、それまでは一人で先頭に立ってがむしゃらに会社を引っ張っていましたから、後継者の育成なんてしていません。残された息子さんが取締役に昇格し、大半の株を相続して大株主になりましたが、高額な相続税のために銀行から借金せざるを得ませんでした。
さらに、相続により大株主となった息子さんが社長ではなく、一取締役として座るといういびつな状態が続きました。その後、息子さんは株式を売却して会社を去ってしまうのですが、その際に私がお手伝いをしました。亡くなった先代の意志を継ぎ、従業員の雇用も守り、会社も成長を続けられるという条件で、業界大手企業に売却しました。
――その方は、鈴木さんとの関係を築いていたから、最悪の事態はまぬがれたといえるのではないでしょうか。
鈴木氏 日ごろから相談できる相手がいることが、いかに重要かということです。準備らしいことはほとんどないままに旅立たれてしまって、多くのことが残されてしまいました。息子さんは、「本当に何も準備してくれなかったから、何をしていいかわからなかった。その代わりに、ものすごい借入だけができた」とおっしゃっていました。準備不足だと、後に残された人々は大変になりますし、特に親族への承継は難しいことが多いと言えます。ですから、事業承継の決断は早めにすべきなのです。