経営者にしかできない「事業承継」

――経営者の方々も、いつか必ずその時が来るということは、頭では理解しているはずです。しかし実際は、なかなか準備が進んでいません。それを解決するにはどうすればよいのでしょうか。

鈴木氏 先ほどお話した、がんで亡くなられた方もそうですが、裸一貫で起業して、仕事に一心不乱に打ち込んできたような方は、なかなか事業承継に意識が向かないことが多いといえます。とはいえ、何も準備していなければ、残された人々――家族や従業員が大変な思いをするかもしれません。まずは、そのことをしっかりと認識してもらう必要があります。

 私が思うに、社長は孤独な職業です。経営者としては、社長以外にも取締役が数人いて、常にチームで検討するのかもしれませんが、最後の決断は社長にかかってきます。前向きなことを決断するのは、社長以外でも難しくないでしょう。しかし、リスクを取ってより大きなチャンスをつかむような決断は、社長でなければできません。事業承継も社長にしかできない役割の1つなのだと認識してもらうことが大切です。

 これは私の持論ですが、そういった場面で社内に依拠することは難しいものです。そのようなときは、社外に目を向けていろんな情報を集めたり、アドバイスをもらったりしてみることです。すると、「三軒隣の社長が実はあんな経営判断をしていた」とか「あそこの会社はこんな買収をしていた」とか、これまで見えなかったことが見えてくるものです。「彼らもリスクを取れたのだから、自分たちもできるはずだ」と絶対になります。その上で、かかりつけ医として私たちのような社外の者から、その戦略が良いか悪いかの判断材料を提供してもらえばよいのです。

 そういった情報にアクセスをする努力を社長以上にしている人は、おそらく社内にはいないでしょう。だからこそ、ぜひリスクを取る勇気を持って乗り越えていただくしかありません。

――事業承継を考えるにあたって、もっとも重要なことは何でしょうか?

鈴木氏 繰り返しになりますが、重要なことは事業計画書を作ることです。私が事業承継でお手伝いするときは、必ず作っていただくようにしています。事業計画書が無い状態は、羅針盤を持たずに航海するようなものなので、極めて危険です。

 もう一つは、これも繰り返しになりますが、「良質な情報」にアクセスするために外部にアドバイザーを持っておくことです。医者にセカンドオピニオンがあるように、アドバイスを求めるのは1社でなくてもかまいません。ただ、アドバイザーにもさまざまな種類がありますから、どのアドバイザーが良いか、ある程度調べていただく必要はあります。

 いずれにしても、明確なビジョンと方向性、加えて定量的な売上と利益のイメージを持つ必要があります。そこを十分と議論することが、事業承継を成功に導く第一歩です。