「職(仕事)」はつなぐことが重要

 もう一方の「職(仕事)」についても、マネジメントの在り方が変化している。

 近年の働き方改革の浸透により、個人の時間管理、仕事の計画や段取りのマネジメントについては、各種の取り組みが行われてきた。さらに、日常業務にはリモートワーク環境が常態化し、仕事の条件や指示・確認の仕方、それらを含めた管理の仕組み、人事制度見直しへの関心も高まってきている。まさしく個人と組織の新しい職(仕事)の関係が問われていると言えるだろう。

 よりよい「職場力」がある状態を実現させるために一人一人の職(仕事)に対する自律性の観点で、大事なことが2つある。

●仕事の背景や目的を徹底的に共有

 1つ目は、一つ一つの仕事の計画を見える化し、目標や判断基準に基づく共有を行い、お互いに仕事をつなげていくことである。

 職場によっては、上司やリーダーが計画をつくり、部下に指示を出すことで、担当者には仕事の背景や目的も十分に伝わらないまま、仕事が受け渡されていることがある。また、他部門から担当者に直接、突発の仕事が入ってきてしまい、上司やチームに仕事の中身が十分共有されないまま、担当者自身が四苦八苦しながら、他の仕事と調整しながら業務をこなしていることもあるだろう。

 これらは、個人やチーム、プロジェクトの現実が十分に見えず、中身の議論がされないまま仕事が授受されている例であり、単に仕事を投げ渡す納得のない個人プレーである。

 これは個人・組織双方が本質的、自律的に仕事をしている姿ではない。これではモチベーションも生産性も上がらない。もし、メンバーが自律的に仕事をしているか不安を覚えるマネージャーがいたら、自分が今、部下に渡してある仕事について、「この仕事の背景と目的は何か?」と聞いてみるとよい。自分の認識との違いに驚く方もいるだろう。実際に、
「目的をしっかりと伝えたつもりだったが、ちゃんと伝わっていなかった」(マネージャー職)
「なんとなく仕事の指示を受けていた。アウトプットもどこまで出すのがよく分からないままやっていた」(若手社員)などの話も耳にする。このような状況では、組織として自律的な仕事になり得ないのである。

 本来は、チームの計画立案や共有の場において、仕事の背景や目的を徹底的に共有し、中身や課題をばらし、チームで課題解決の知恵を集め、納得を確認し合いながら仕事の授受を成立させていかねばならない。

 それらの「やりとり」を丁寧につないでいくことで、リアルかリモートかといった環境を問わず、過剰な管理を不要とし、個人と組織間の信頼関係に基づく業務遂行を実現していくことができる。

●公私一体・高生産性・高創造性のリズムをつくる

 2つ目は、自分の仕事は自分で計画し、セルフマネジメントのリズムをつくることである。

 自らの仕事は自らが責任を持ち、計画するのが基本姿勢である。そのために足りない情報や懸念がある場合は、チームや上司にも状況が見えるようにし、知恵や情報を集めて仕事の授受を成立させていくことが求められている。

 また、今は限られた時間や場所の制約の中で、プライベートも含めて自分自身の判断で緩急をつけて時間管理や自己啓発を行うことも多く、これまで以上に個人のキャリアデザイン・キャリアプランの描き方やメンバーの多様性を認め合うチームの合意形成も重要になっている。

 個人の意識や判断だけに頼っては、組織の中で自律的な職(仕事)はできない。個人とチームの関係、仕事軸と成長軸の関係、これらを組織の中で“合意と納得”でつないでいくことにより、それぞれの役割と規範が機能し、人・組織の自律的な職(仕事)の遂行がシステムとして実現できるのである。

 お客さまや社会の目線に立ち、自分たちの仕事の意義をとらえ直しながら、目の前の職(仕事)の課題を見えるようにして、自分と相手を切り離さずに、その仕事に関わる全員で課題発見と課題解決の協働作業をしていく。すなわち、同じ輪の中で一体感を醸成していくことが、コミュニケーションの本来の在り方であって、より強い「職場力」をもった職場の基本機能なのである。

「職(仕事)」が見えて、協働作業で知恵が集まる「場」があるのが本来の職場なのである。ぜひ、人・組織の能力を引き出す「場」の本質的な力を信じ、再構築しながら、「職場力」の再生に前進していただきたい。

コンサルタント 星野誠(ほしの まこと)

R&D組織革新・KI推進センター センター長 
チーフ・コンサルタント

技術者や事業スタッフの知的生産性向上と職場活性化を専門としている。知的生産性を妨げる様々な複雑な問題が絡み合う職場に飛び込み、日常業務の仕事のやり方を具体的に変えていくコンサルティングを実践している。300チーム以上の職場変革支援の経験から、やらされ感でなく自分たちで自立して変革を進めるための考え方と実践手法を日々実践・研究している。