協働作業の知恵集めの「場」をつくる

 では、今、そうした「場」をどのように持てばよいのだろうか。

「場」の持ち方としては、多拠点で時差のある仲間たちと非同期で仕事をする機会が多い、欧米のグローバル企業を好例として学ぶことができる。欧米企業では、リアルに集まりプロジェクトを進めていく上での心理的な壁を解消しメンバーの思いを合わせることと、リモートで効率的かつ効果的に知恵を集めて連携しながら仕事をすることを、うまく切り分けてマネジメントしている職場も多い。これは一体感を醸成するリアルの場と効率的に進めるリモートの場の使い分けという観点では、大いに参考になる。

 日本での事例も紹介しよう。トヨタ自動車をはじめとする自動車業界の開発現場には、プロジェクトに関わる全員が参加する「大部屋」というデジタルの場がある。こうした場をつくり、課題を”見える化”して連携、課題を解決し、継続的改善を図るのである。現地現物で現実の課題に向き合い、チームで知恵を集めるところは日本のものづくりの現場において得意なアプローチである。

 日本でも“知恵を結集する「場」”の再構築の方法として、課題を”見える化”するインフラシステムをデジタル環境で構築をしていくという方法も開発されてきている。このようにデジタル技術を使って「職場力」再生を推進していくことは可能だろう。

 ここで、会議におけるコミュニケーションについて、リアルとリモートの違いを整理してみたい。この違いを理解した上で、リアルとリモートで協働作業の「場」をつくることが重要になる。

 リアルの会議では、空間を共にすることで、情報、温度、音やにおいなどといった五感の共有がされている。そのような場面で情報をホワイトボードなどに目に見えるように書き出したり、資料を指さし身ぶり手ぶりを加えながら説明をしている状況を想像してみてほしい。

 このようなアクティブな、つまり能動的なコミュニケーションが行われている状況だと、コミュニケーションの中で感じた視覚や聴覚という外部刺激が、先ほどの空間の共有と同じようにプラスの情報として受け取れるのではないだろうか。

 また、皆が対面で意見を侃々諤々(かんかんがくがく)でぶつけ合いながら方向付けをした意思決定には、「皆で決めた」という妙な納得感を感じるものだ。このように空間を共有しながら一緒に議論したり、業務を行うことを「協働作業」という。「協働作業」は自己と他者との間で五感と身体の共有がなされる”共感型”のコミュニケーションアプローチである。

 一方、リモート会議では、視覚と聴覚に頼った”画像と言語だけの情報伝達”が行われる。そのため、話者と聞き手が相対する関係になりがちで、話者が話している言語情報を聞き手が評価するような雰囲気が生まれ、話者は無意識のうちに心理的抵抗を感じてしまう。

 聞き手と話者の間に境界線が生じ、コミュニケーションに主従関係ができると、本来は早期に共有・解決しなくてはならない課題を「大丈夫です。是正します」といった努力報告で済ませてしまうことがある。

 本当なら「ここが懸念です。ここはモヤモヤしています。ここの認識がずれています。ここに知恵が欲しい。ここを協力し合いたい」といった共有が早い段階で行われることが望ましいが、打ち明けづらい。その結果、重要な問題を担当者個人や特定部門内に抱え込んでしまい、トラブルになってから初めて明らかになるリスクがある。

 ビジネスの現場において人間が仕事をすることは不変だ。そこには、人が集まり、知恵を集めることによる人中心のマネジメントプラットフォームがある。すなわち、お互いに共感しながらのコミュニケーションが実践される協働作業の場で、人がイキイキと自律的に仕事を行うことが何よりも重要である。

 リモートワークの時代においては、より意識的に「協働作業」を感じるための条件を整える必要があるといえる。