A社におけるスマートファクトリー化構造を例に考えていこう。

 生産システムの目指す姿を設計するにあたり、フィジカル、オペレーションの成熟度レベルをマイルストーンとして設定し、ロードマップを描く。また、こうした生産システムを維持・高度化するマネジメントエクセレントの追求も同時に行う。マネジメントレベルの5段階は、データの保有レベル(蓄積、広がり、深さ)とそのデータの活用レベルを評価軸として成熟させていくモデルを想定している。

 A社の実情は部門によって差はあるものの、おおむねレベル3であり、決められたKPIの収集と報告を月次サイクルでサポートし、PDCAを機能させている。

 そこで、A社でのスマートファクトリー化構想を次のようなステップで進めた。

①KPIの再構築
②さまざまなセンシングデバイスを用いてそのKPIを構成するデータの自動取得
③既存システムの情報と合わせてデータレイクを作成
④BIツールを用いたKPIの可視化・超高速PDCAサイクルの実現を基本思想としてデザインする(取得、蓄積、可視化、活用)

 このステップの「仕掛け」の大きな狙いは、工場長から現場のオペレーターに至るまで各階層間で情報の連続性と連動性を維持することである。

 さらには、KPIと製造原価実績の連動、拠点間でのリソース補完など、将来的には複数拠点があたかも1つの工場であるかのように時間と距離を超越したマネジメント革新も視野に入れている。

◆最も重要な変革(Change MIND、Change ROLE)とは

 3つのエクセレントの追求で実現する、より良いスマートファクトリー化において最も重要なことは、そこで働く人の意識の改革や組織での役割の変革である。

 “見える化”されて提供されるさまざまな情報は、人を評価するために活用されるのではない。一人一人が、よりスマートな意思決定と次のアクションにつなげるトリガーとして活用されなければならない。

 原価意識を持った日々の活動に加え、より革新的な思考が求めらる仕事や改善活動へと働き方がシフトしていくような働き方改革をDXを通じて実現していく——これこそが最も重要であり、企業そのものの力を強固にしていくと考える。

 スマートファクトリー化を構想するプロジェクトオーナーとPMOは、単にDX化されて自動化が進んでいる無機質な変革に着目するのではなく、そこで働く従業員の変革にスポットライト当て続け、改革をリードしていくことが重要である。

コンサルタント 毛利大(もうり だい)

プロダクションデザイン革新センター長 シニア・コンサルタント
生産コンサルティング事業本部 プロダクションデザイン革新センター センター長 兼 デジタルイノベーション事業本部 シニア・コンサルタント

生産戦略と呼応した生産システム再構築を領域とし、新工場建設、生産プロセス再設計領域で活躍。TP(Total Productivity)マネジメント手法や、IPS(理想目標コスト)手法によりものづくりの収益性向上を支援。JMACスマートファクトリー研究会でIoTをコアコンセプトとした今後のものづくりの在り方を研究。