グローバルに、そしてローカルに。新オープンイノベーションへの期待

 2018年3月14日。日本IBMによるスタートアップとの共創プログラム「IBM BlueHub」第4期採択スタートアップのデモデイが開催された。2014年に第1期がスタートしたIBM BlueHubは、参加した多くのスタートアップと大手企業との事業提携を実現させてきた実績がある。スタートアップを支援し、さらに日本発でオープンイノベーションを活性化させようとする意欲的なプログラムなのだ。

多くのスタートアップが参加し、新規事業を生み出してきたスタートアップとの共創プログラム「IBM BlueHub」。2019年8月現在、プログラム第6期の募集中。(画像は「IBM BlueHub」第4期募集プレスリリースより引用)

「3.11の苦しみを二度と繰り返したくない。そのためにもドローンをもっと簡単に飛ばせるようにし、多くの現場で多くの人を助けられれば――」

 ステージの上には、災害救助でドローンを活用するための自動航行支援システムをプレゼンするトラジェクトリー・小関氏の姿があった。

「前述の通り、ドローンの飛行ルートを自動で生成する『航行支援』が私たちトラジェクトリーのコア技術です。それによってルート設定時間の大幅な短縮を実現し、迅速な救助や支援を可能にするのです。甲賀市での実証実験では、このコア技術がストライクゾーンになる取り組みができました。

 しかし、今になって振り返ると、自治体と折衝を重ね、プロジェクトを進めることは私たちのようなスタートアップが単独で行うのは困難だったでしょう。課題の解決で自治体に応えようとしても、持っている武器は『ドローンを無人で飛ばす』という1つの技術しかありません。しかし、IBMとのコラボでブロックチェーンという武器が加わり、スタートアップが持てる力以上の取り組みができました。あのデモデイからフルパッケージまで…IBM BlueHubを経由したからこそ、初めてたどり着けた地平です」(小関氏)

 スタートアップをバックアップし、実証実験を下支えして成功に導いたIBMも大きな手応え、そして未来への広がりを感じている。

「ブロックチェーンをはじめとして、IBMは様々なテクノロジーを持っていますが、ドローンのプロジェクトはありませんし、知見を持つ者も多くはありません。しかし、今回トラジェクトリーとのパートナーシップにより、新たなシーズ、ビジネスの可能性を感じることができました。とんでもない技術を持っているスタートアップと組むことで、IBMが持っている広範な技術がきちんと生かせる。そんな可能性を感じたのです。実証実験には様々な業界の企業に視察していただき、災害対策をテーマにした新たな共創も始まりつつあります」(岡村氏)

 オープンイノベーションは、多くがメジャー企業とスタートアップの共創によって課題解決に向けた革新を狙うものだ。しかし、今回のプロジェクトには慶應義塾大学の高橋氏が加わっている。高橋氏がもたらした視座により、次世代を見すえた取り組みをしていくことの重要性を認識した、と岡村氏、小関氏は口を揃えた。

「技術を組み合わせだけではソリューションの域を脱することはできません。もちろん、目の前の課題を解決するのは重要です。しかし、ムーンショット――困難ではあるものの、実現によって社会に大きなインパクトをもたらすことができる壮大な目標――のような、次世代を見据えた課題に取り組むこと。ここにこそ、オープンイノベーションの意味があるのではないでしょうか。この実証実験はベストなケーススタディになりましたが、今後もIBM BlueHubでは日本発のオープンイノベーションを推し進めていきます。ちょうど現在募集中の第6期でも、志あるスタートアップとの共創を楽しみにしています」(岡村氏)

「たとえば、グローバルな問題として深刻さを増しているマイクロプラスチックごみ問題がありますよね。これも、海洋でどう浮遊し、漂流していくかを多くの国で把握していく情報共有基盤が求められています。そこにはブロックチェーンが存在感を持って活躍できる余地があるでしょう。もちろん、グローバルだけではありません。ローカルでも地域差に即した、きめ細かい災害対策が必須です。今回の実証実験は国レベルの展開も見据えたものでしたが、ローカル版の課題解決を図るオープンイノベーションとして、ローカル版のIBM BlueHub、といったアプローチもあり得るのではないでしょうか」(高橋氏)

 スタートアップならではのエッジの効いたテクノロジーを生かし、大企業ならではのマネジメント力・推進力をマッチングさせる。本プロジェクトはスタートアップとの共創プログラム「IBM BlueHub」の理想形として結実した。実証実験としてはピリオドを打ったが、3者の強固なパートナーシップと確固たるビジョンに導かれたプロジェクトとして、さらなる発展を目指している。