さらに、スウェーデンの起業家教育の内容は米国流を踏襲したものかと問うと、「自分も米国で学んでおり、米国の流儀を基礎にしているが、ニュアンスが少し違う」と言う。ヨーロッパの価値観では、起業家教育は“Value for others”に力点が置かれているが、ここが米国では“Value for myself”に力点があるということだ。日本人の思考回路は、ヨーロッパに近いと言えるのかも知れない。

 この点について、フランスでは学校教育で哲学が重視されているが、そうした哲学的思考や倫理感が昨今のEUの強力な個人情報保護指令につながっており、これは米中のベンチャー企業による力任せの情報一元管理と一線を画するものだとの考え方もある。

 なお、本年10月の同イベントでは、同時に米国のバージニア大学の教授の講演もあったが、そこで面白いエピソードを聞くことができた。いわゆる「嫁ブロック」についてである。

 大企業に勤める夫がスピンアウトして起業しようと妻に言ったところ、妻がとんでもないと反対し、夫はその教授に相談した。教授は「それでは奥さんを私の授業に連れてきなさい」とアドバイスし、妻は授業を受けに来るようになった。結果、妻の方がアントレプレナーシップに熱心になり、彼女がスタートアップを設立したというのである。

 また、「起業家教育は、起業を目指す学生だけにすればいいのか、すべての学生を対象とすべきか」という質問に対しては、同教授は「科学をすべての学生に教えることにより、科学者だけではなく、すべての人々が科学のサポーターとなってくれているのと同様に、起業家教育もすべての学生を対象にすることにより、人々が起業のサポーターとなってくれる」と回答していた。

 フランスにおける起業家教育事情については、前回触れたところであるが、さらに最新の報道についても補足しておきたい。

 本年10月11日に、Station F によるパリ政治学院(Sciences Po)の学生に対する説明会があった。そこで、本人もパリ政治学院の卒業生である Station F のディレクター(女性)は、米国での経験を振り返り、「カリフォルニアでは飽和状態になりつつあるとの感じを持った。フランスに帰ってみると、この分野はまだ新しく、すべてが構築途上であり、自分が影響を及ぼす余地があると感じた。フランスのエコシステムはさまざまな挑戦に直面するが、それが自分にとって魅力と感じた。米国ではいささか粗野な文化が支配的であるが、フランスでは健全さを感じた。2009年にフランスに帰ったときには、大学での起業家教育のプログラムはほとんどなかったし、インキュベーターを有している大学も限定的であった。今や、それらはすべての大学に備わっている! すばらしいことだ」と述べている。