日本のオープンイノベーション促進には何が必要なのか? 通商産業省/経済産業省で貿易振興、中小企業支援などに携わり、現在はベンチャーエンタープライズセンター理事長を務める市川隆治氏が、諸外国の実例とデータに基づき、オープンイノベーションの環境について議論を重ねていく。(JBpress)
【第9回】「フランス人の起業意識は日本人と同じくらい低かった」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54722)
フランスの起業家教育“after”
フランスの最近の変化について、“before & after”で説明を試みている。前回は、“before”の状況を説明した。
「清算となった起業家は、フランス銀行のブラックリストに掲載され、銀行取引に困難が生ずる」との暗い調査結果があると思えば、「今日、優秀な学生は、大銀行や大企業で働くよりもスタートアップの創設を夢としている」との前向きな学生の姿勢が報告されている。何とか憂鬱な状態から抜け出そうとする姿が、今の日本と二重写しになる。
2017年のフランスのスタートアップの資金調達額は約30億ドルと言われており、これは、日本の2017年度のVC投資額国内向け1362億円に大企業からの投資額を加えるとほぼ同水準となる。その意味でもフランスの動向は気になるところである。
さて、今回は“after”である。何をもって“before”から“after”に転機を迎えたのかの判断は難しい。もちろん、“before”のときから未来に向けた兆候はあるものであろうが、フランスにおけるエポックメーキングなできごとは、エマニュエル・マクロン大統領の登場と「Station F」の創設と言ってもいいのではないかと思う。
“before”のときからの未来に向けた兆候については、今年(2018年)11月に訪仏し、フランスのエリート養成校グランゼコール(Grandes Écoles)のひとつ、パリ政治学院(SciencesPo)のアントレプレナーシップセンター(Centre pour L’Entrepreneuriat)のディレクターから話を聞くことができた。
同センターの設立について質問したときだ。同センターは2008年に設立されたのであるが、その背景にはリーマンショックと、それへの対応として当時のニコラ・サルコジ大統領が発足させた、スタートアップへの投資に対する税制優遇策があるということだ。その当時からスタートアップには一定の注目があり、グランゼコールにおける起業家教育も始まっていたということになる。