「DECA ICDC」の開会式の様子。参加国の国旗が勢ぞろいだ。
日本のオープンイノベーション促進には何が必要なのか? 通商産業省/経済産業省で貿易振興、中小企業支援などに携わり、現在はベンチャーエンタープライズセンター理事長を務める市川隆治氏が、諸外国の実例とデータに基づき、オープンイノベーションの環境について議論を重ねていく。(JBpress)
【第6回】「シリコンバレー流起業家教育はどこが革命的なのか」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54335)
課題解決能力と哲学的思考
ベンチャーエコシステム(生態系)の、地面の下で見えていない教育、特に高校での起業家教育について、お手本たる米国、シリコンバレー流について論を進めている。
第4回で、教育改革には国家が転覆するような大事件でもないと本当には進められないのかも知れないと書いた。だが、そうも言っていられないので考えてみた。
入試の改革は受験生にとって大事件となる。そのためには、課題解決能力をどう評価したらいいのか、その方法論を確立し、生徒や親、さらには社会全体が納得することが必要となろう。
ひとつのヒントは哲学的思考ではないだろうか。伝統的にフランスでは、教育において哲学が重視されている。フランスのエリートが通うグランゼコール(Grandes Écoles)の入試には、哲学の問題が必ずあると聞いている。
ある年、グランゼコールのひとつ、高等師範学校の入試問題に“expliquer”が出たという。「説明する」という意味の動詞である。これについて、内外の哲学者の論述を引用しながら、自らの言葉で延々と論述していくのである。それをどのように採点するのか? 今の日本の受験生にしてみれば晴天の霹靂となろう。
全米の高校が集まる「DECA」
さて、前回は、日本では画期的な「GTEプログラム」について説明した。実はこのプログラムをきっかけとして、シリコンバレーでの高校生起業家教育について授業参観する貴重な機会を得た。件のカリフォルニア州ハーカー高校を訪問することができたのである。
日本ではおよそ考えられない、聞いている人のエモーションに訴えるプレゼンテーションの仕方とか、株やクレジットカードの使い方といった極めて実践的な内容に、教師が熱く語りかけ、生徒も積極的に質問していた。アクティブラーニングの模範のような授業であった。
同校では、さらに、飛び抜けた生徒をどうサポートするか、高校生では遅いと考える起業家教育を、どのように中学レベルに導入すべきかについて議論しているとのことである。もう日本との差は、何もしなければ広がるばかりだと感じた。
さらに、ハーカー高校のような起業家教育に熱心な全米の高校が集まる「DECA(Distributive Education Club of America)」という組織の存在を突き止めることができた。
DECAは、第2次世界大戦後まもなく1946年に創設され、70年以上の歴史がある。“distributive education”とは最近ではあまり使わない言葉ではあるが、「産学共同教育」という意味があるようである。先生に聞いてみると、今や特に意味はなく、DECAの一文字だけで通用しているということであった。
そしてDECAの性格もだんだん変遷し、今や全米でビジネス界における次世代リーダーを育成するためのプログラム、すなわち、起業家教育の中心となっているということであった。
DECAのキャリアクラスターは、大きく、(1)マーケティング、(2)マネジメント、(3)ホスピタリティとツーリズム、および(4)ファイナンスといった4つから構成されており、この点で「SAT」*1や「ACT」*2といった他の能力試験と差別化されている。米国の大学では広く認知され、入試に際してもDECAでの活躍は評価されるという。
*1:Scholastic Assessment Test。米国のカレッジボードが主催する大学進学適性試験。
*2:American College Testing。米国の民間企業が主催する大学進学適性試験。
DECAは、米国教育省の認可を受けており、今やカナダ、ドイツ、中国、韓国などにもその活動は広がり、全世界で20万人を超える高校生がDECAに参加しているという。しかし、残念ながら日本の参加は見られない。残念ながらここでも日本は後塵を拝している。
DECAには各州の組織があり、さらにはカリフォルニア州については、北部、シリコンバレー地区、南部の3つの地区があり、毎年各地区ごとの大会が開催されている。DECAのシリコンバレー地区大会では、700人を超える高校生が参加し、それぞれ20科目はあるマークシート試験や面接試験、さらにはビジネスプラン作成試験に臨んでいた。面接試験では、試験会場で与えられる課題について10分間とうとうとプレゼンテーションをこなし、審査員の質問にも回答しなければならない。
DECAは、まさに高校生における起業分野における切磋琢磨の場である。やることはマークシート試験や面接試験であるが、そのノリはまるで体育会系である。開会式で学校別の余興があるが、自校の代表が舞台に上がるとフロアから大歓声が上がる。それが試験になると、服装もジャージからスーツにネクタイと、ガラッと変わり、プレゼンテーションは真剣そのものである。
ちなみにシリコンバレーという土地柄、インド系と中華系が白人よりも多いという印象を受けた。生徒たちは顔の色に関係なくふざけ合い、談笑しているようであった。
試験が終わった夜はダンス大会だった。絨毯を気にしてか、大ホールの真ん中に板が敷かれ、その上だけが彼らのロックに興じる舞台となる。
DECAの国際大会
メインストリートにはこのような旗がはためいていた。
DECA最大のイベントが、国際大会「ICDC(International Career Development Conference)」である。
2万人の高校生が街を埋め尽くす――。これが今年(2018年)4月21~24日に米国南部アトランタにおいて開催された「DECA ICDC」の印象である。
意外にも、初日のプログラムは5kmのマラソンから始まった。勉強ばかりではなく身体も鍛えよという、ICDC伝統の行事だそうである。ただ、プログラム名が「DECA 5K RUN/WALK」とあるように、歩くことも許されており、先頭集団以外は友達としゃべりながら歩いていた。マラソン大会さながら、道路の1車線をコーンで仕切り、中間地点には給水所もあった。
ゴールを通過するとメダルがもらえた。私のすぐ後に、足に障がいのある女子生徒が歩行器の助けを借りながら完走し、ゴールすると盛大な拍手がわいていた。
初日の夜は開会式である。会場は、7万人収容可能なフットボールやサッカーの競技場であるメルセデス・ベンツ・スタジアム。その巨大さは東京ドームを凌ぐ。その3分の1ほどのスペースを使い、普段はピッチとなっている地面に巨大な舞台をしつらえ、同じく地面に置かれたパイプ椅子と斜面になった観客席を2万人で埋め尽くした。
観客席は超満員。
参加国は写真の国旗の順番で、米国、スペイン、メキシコ、韓国、日本、インド、ホンジュラス、ドイツ、中国の9カ国であるが、実は隣国カナダは、米国の各州と肩を並べてオンタリオ州として参加している。サッカーでイングランドとスコットランドがあるような歴史的なものではなかろうか。日本については手続き途上で、生徒も送り込めていないが、私が参加したということで日の丸が振られたようである。
各州の紹介では州の旗が振られ、自分達の州が紹介されるとその場所から大歓声が上がる。日本で言えば選抜高校野球のノリだ。
2日目の午前中(科目によっては午後)はマークシートのテストとなる。四択の問題が100問で、制限時間は90分。科目は、会計学、ビジネス金融、ホテル経営、マーケティング、スポーツおよびエンターテインメントのマーケティング、観光など33個もあり、生徒が選択する。会場は、東京ビッグサイトのような巨大なホール、ジョージア世界会議センター(Georgia World Congress Center)だ。
真剣な表情でテストに取り組む。
このようなテスト方式のものの他に、「Start-up Business Plan」や「School-based Enterprise Food Operations」のようなプレゼンテーションをする科目もある。
大人気の「SHOP DECA」。レジは長蛇の列。
テストが終わると、隣が展示ホールとなっており、いろいろな大学のブースで情報収集したり、エンターテインメントのブースで遊ぶこともできる。また、売店(SHOP DECA)でDECAのグッズや問題集を買ったりもできる。
3日目は予選(Preliminary Competition)で、多くの科目ではロールプレイ(Role Play)と呼ばれる、口頭試問となる。試験用紙に自分が、例えばホテルのコンサルタントであることが書かれており、不祥事を起こしたホテルの従業員に対し、どのように対処したらいいかを指導しなさいという問題。会計学であれば、自分は公認会計士で、売掛金や買掛金について会社の経理に説明するというような場面設定となる。
審査員はボランタリーの生徒の父母が多いようである。審査員の用紙にはするべき質問が2問記されており、どの生徒にも同じ質問をし、生徒の回答ぶりで点数をつける。このような方式なので、素人の父母が審査員になれるよう工夫されている。
科目によって、生徒が1人の場合も2人の場合もあるし、数人でパネルを使ってプレゼンテーションをしているものもあった。
ここまでクリアすると、生徒には次のような証明書が渡される。しかしこれは、DECAメンバーであることの証明というくらいの意味しかないようだ。
生徒に渡された証明書。
3日目の夜にはコンサート(DECA Concert)が用意されている。会場は再びメルセデス・ベンツ・スタジアム。主役は、若者に絶大な人気を誇るシンガーソングライターのアンディー・グラマー(Andy Grammer)。
生徒達の歓声は今でも耳に残る。展示ホールやこのようなエンターテインメントを織り交ぜているところが高校生をICDCに惹きつける一因ではないかと思う。
残念ながら4日目には参加できなかったが、メルセデス・ベンツ・スタジアムで、予選のトップ20の生徒が発表され、彼らが決勝(Final Competition)に参加できる。科目によるが、平均して1科目200人が参加しているので、トップ20は1割くらいに絞りこまれるということだ。
そして夜には、決勝を勝ち抜いた各科目の優勝者が発表される。その盛り上がりは想像に難くない。優勝すると大学入試において、かなり良い(“pretty good”な)評価が得られると生徒から聞いた。
アントレプレナーシップ教育の世界標準
我が国においては圧倒的に起業家の数が少ない。そこを変えるには高校までの教育を万事受け身のスタイルから、課題探索・解決型、自ら学ぶアクティブラーニング型に変えていかなければならない。
それには、高校生のアントレプレナーシップ世界標準ともいうべきDECAの活動に、日本としても参加し、まず高校生のときから世界に並ぶマインドを持ってもらい、その上で大学・大学院における起業家教育でさらにビジネス実務に近い技能を磨き、世界に伍する起業家を日本から輩出するようにしていくことが必要であろう。





